「ここじゃないどこかに行けますように」
毎日のように家の近所にある高神神社でそう願い事をする少女、ひなはわずか9歳にして不遇な人生を送っていた。
彼女が生まれてすぐに行方を眩ませた母と、その母を探して世界中を飛び回る父。
両親はただの一度も、ひなに連絡を寄こしたことが無かった。
そしてそのひなを預かることになった父の両親は、ひなが5歳になる頃から彼女を疎ましく思うようになっていた。
ひなには人には見えない物が視える、不思議な能力があっ
た。それもただの幽霊と言う類ではなくいわば妖怪と呼ばれるものだった。
成長するにしたがってハッキリとその存在を視れるようになったことで、次第に友人や祖父母から気味悪がられるようになり、やがて孤立してしまう。
家に帰っても学校に行っても、誰も自分の傍にいてくれる人がいない事で、ひなは「ここじゃないどこかに行けますように」と神社で願うようになった。
「ここじゃない場所って言っても、施設には行きたくない。だって……どうせ施設に行ったってひなが色んなものが視えるって分かったら、結局みんな気味悪がって離れてっちゃうんだもん。だったら、一人の方がいい……」
だが、今の生活をしていればいずれ行政の人間が情報を聞きつけ、施設に入れるために連れに来るに違いない。
それが今のひなには一番怖い事だった。
そんなある日の夜、通い続けていた神社に不思議な光が下りた事を見かけた。そしてその夜に突如訪ねてきた警察に恐怖を覚えた。
施設に連れて行かれちゃう。
ひなは暗い夜道を危険だと分かっていながら、家から飛び出して神社への道を急いだ。
神社に辿り着いたひなの目に映ったのは、頭から二つの角を生やし、金色とも黄緑ともつかない肩までの髪と、尻尾のように長い朱色に染まった髪を持った一人の男性だった。
「お願い、ここじゃないどこかに連れてって」
彼は自分をどこかへ連れて行ってくれると確信したひなはそう願い出た。
神獣でもある麒麟と彼の神使でもある八咫烏、そしてひなの物語。
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