壁は深い藍色。扉は古びた黒い木製で、
その取っ手には真鍮の鈍い光が宿っている。
小さな灯りが、まるで心の中だけを照らすように、静かに揺れている。
扉を開けると、そこは別の時間が流れる場所──「The Tale’s End」。
カウンター
だけの小さなBar。
音楽はレコードのジャズ。時間を告げる時計はなく、
ただ静かに揺れる振り子だけが、店内にかすかなリズムを与えている。
バーカウンターの向こうに立つのは、穏やかな瞳をした“マスター”。
名前は明かされないが、訪れる者の心をすっと読み取るかのように、ぴたりと寄り添う一杯を差し出してくる。
その酒は、不思議と懐かしく、そして少し切ない。
あなたが抱えてきた感情を、まるで味にしてグラスに溶かし込んだような…そんな一杯。
そして、グラスの縁が空気を切り、余韻が舌に残る頃──
いつのまにか、あなたは語り始めている。
誰にも話せなかったこと。
自分でもうまく言葉にできなかったこと。
忘れたふりをしてきた、大切なこと。
一言、一文、そのすべてが物語となり、
バーカウンターの奥に並ぶ背表紙のない本の一冊に、
まるで筆が自然と走るように記されていく。
文字は淡く光り、ページはほんのりと温かさを帯びる。
語り終えたとき、本の背にあなたの名が刻まれ、
それは静かに棚へと納められる。
そうしてあなたは席を立ち、
「The Tale’s End」をあとにする。
振り返れば、扉はもう、なかったかのように夜の闇へ溶けている。
けれど、その夜に語った物語は、確かにこの世に残る。
記憶に形を与え、心に灯りをともす、ささやかでかけがえのない一冊として。
「The Tale’s End」──それは、感情の果てにだけ現れる、語りと記憶のBar。
あなたが語る物語が、今夜もまた一冊の本になる。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-16 17:30:00
35083文字
会話率:20%
このマンションの住人たちは、皆なにかを抱えている。
401号室に住む青年・リリーは、金髪の美しい容姿とは裏腹に、自己肯定感が著しく低く、どこか壊れたような日々を送っている。
彼の頭の中には、ヘルターと名乗る不穏で饒舌な青年が住みついてお
り、彼に囁く
誰もがどこかに傷を抱え、忘れたふりをして暮らしている。
だがやがて、閉ざされた七階の扉、消えた住人、上書きされた誰かの記憶――
このマンションの“正体”が、静かに滲み始める。
過去に囚われて行き彷徨う者たちの行く末とは
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-10 15:22:19
7471文字
会話率:42%
狂気、それは外から来るものじゃない。
私の中に、最初からあったんだと思う。
あの電柱の灯りを見たとき、わかってしまった。もう誰にも止められないって。
昔のことなんて、忘れてしまえばよかったのに。
でも、忘れたふりをして生きていた私が、いちば
ん許せなかった。
あの子たちは、まだ知らない。
灯りがともるとき、何が始まり、何が終わるのか。
けれど、それでいい。
語るべきことは、まだ残っている。
そして、次に灯りがともるのは……。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-04 13:54:04
3358文字
会話率:20%
雨がやんだあと、
空は翡翠色をしていた。
風は何も語らないのに、
どうしてか、
君の声が聞こえた気がした。
失ったものは、
本当に消えてしまったのだろうか。
あるいは、
ただ、違う場所に在るだけなのかもしれない。
これは、
忘れたふ
りをしてきた誰かが、
もう一度だけ、風に祈るための物語。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-04-03 21:30:17
10453文字
会話率:9%
捻くれ大学生・須藤悠には、忘れられない過去がある。
友人に誘われ参加した成人式。そこで再会したのは、藤宮春海――かつて自ら想いを踏みにじった相手だった。
拗らせたままの悠と、どこまでも優しく、不器用なまでに変わらない春海。
交わす言葉の裏に
滲む、消えない記憶とすれ違う感情。
再会を機に、何かと顔を合わせるようになった二人。ぎこちないながらも交わされる会話、過去と現在の狭間で揺れる想い。
それでも、春海の何気ない一言が、悠の止まっていた時間を少しずつ動かし始める。
「《昔》のこと、気にしてないよ」
無邪気な笑顔とともに放たれた言葉は、悠の心に静かな波紋を広げる。
忘れたふりをしていた後悔、閉じ込めていた感情。
それらと向き合うことになったとき、悠が選ぶ答えとは――。折りたたむ>>続きをよむキーワード:
最終更新:2025-03-14 21:25:59
4329文字
会話率:41%
これからの季節に向けて書いた配信者さん向けシチュエーションボイス台本。
何年かぶりに雪が積もった日に幼馴染の女の子が手袋を忘れたふりをして手をつなごうとしてくるという寒い冬にぴったりの心温まるエモいシチュです。
最終更新:2022-11-08 00:17:52
483文字
会話率:0%
言の葉は海に流せばそれでいい あとは忘れたふりでいい
最終更新:2022-01-21 13:17:34
316文字
会話率:0%
学園祭の想いを綴った詩です。
人の行き交う学園祭
サークルごとに出店や出し物
あなたもきっと見知らぬ誰かと
学園祭を楽しんでいる
私も忘れたふりしてはしゃぐ
会えますようにと願いながら
最終更新:2019-12-22 01:42:42
342文字
会話率:0%
魔王アダムスの愛娘マキュリー・プライドはずっと、初恋の魔人(ひと)プルトー・ラースを想っている。
プルトーは弱くて惨めなマキュリーに手を差し伸べてくれた。プルトーが信じてくれたから、マキュリーは強くなれたし、美しくなれた。
出会い
と別れから百年の歳月が流れ、約束は果たされた。マキュリーは喜び勇んで、プルトーに会いにゆく。
「会いたかったわ、プルトー! お前もあたくしに会いたかったでしょう、そうでしょう、そうに決まっているわね! まったく、このあたくしを待たせるなんて。魔神をも恐れぬその所業、流石はあたくしの運命の魔人(ひと)だわ! さぁ、跪きなさい。求婚するのよ、今ここで。そうしたら、お前と結婚してあげる。お前はこのマキュリー・プライドの夫になるの。感動に咽び泣くが良いわ!」
ところが、プルトーはきょとんとしている。
「どちら様? なによ、忘れたふりなんかしちゃって。そうまでして、あたくしの気を惹きたいの? 可愛いところがあるじゃない。……痴女? なにそれ。……騙したって、誰が、誰を?」折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2018-07-02 22:12:26
102155文字
会話率:25%
あの頃はなんでも話せる関係が理想だと思っていたけれど、それはつらいことだと分かったから・・・。
最終更新:2016-11-16 05:46:47
290文字
会話率:0%
社会から孤立する人たちがいます。忘れたふりでいるうちに凍えて朽ちた親子の話です。(「パブー」へ重複投稿しています)
最終更新:2016-02-08 16:04:22
3974文字
会話率:12%