気づけば、また知らない世界にいた。
死ぬたびに、違う姿、違う世界、知らない人。
けれど、なぜか胸の奥には、何かを忘れているような喪失感が残っていた。
荒れ果てた世界、飢えに満ちた世界、争いの絶えない世界――
幾つもの生を繰り返しながら、
彼は“誰かを守りたい”という想いだけを抱き続ける。
転生の果てに、彼が辿り着くものとは。
これは、魂の奥底に宿った“願い”が、いくつもの世界を超えてつながっていく、ひとつの旅の物語。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-23 13:22:15
42277文字
会話率:21%
自己肯定感が低く、自分の顔を「落書きのよう」だと感じる健太は、学年一の美少女、美咲とは住む世界が違うと感じていた。一方、美咲は美しさゆえの表面的な人間関係にうんざりしていたが、健太の誰に対しても無意識に行われる純粋な優しさに気づき、惹かれて
いく。
美咲は健太に歩み寄ろうと「優しいね」と声をかけるが、健太は美咲の優しさを「からかい」と誤解し、冷たく突き放してしまう。彼を取り巻く周囲のひそひそ話や、美咲に好意を抱く野村たちのデマが、健太の疑念をさらに深めた。美咲は健太の拒絶に途方に暮れるが、それでも彼の本質的な優しさを信じ続ける。
美咲が健太への働きかけを一時中断したことで、健太は初めて喪失感を覚える。そして、美咲の「いつもの笑顔」が失われていることに気づき、自分の行いを後悔し始める。
ある日、美咲が困っている姿を目にした健太は、以前のように無意識にドアを開けて助ける。その時、美咲から「ありがとう。あの時も…」という言葉を聞き、健太は自分が美咲を傷つけていたことを痛感し、震える声で謝罪する。美咲は健太の心からの言葉に安堵の涙を流し、自身が以前助けられた時の喜びを語る。健太は、自分の些細な行動が美咲の心を温め、彼女が自分に興味を持った本当の理由を知る。
美咲の純粋な感謝の言葉は、健太の心の壁を打ち破り、彼は初めて美咲の真の優しさを受け入れた。二人の間にあった隔たりが消え去り、美咲の「いつもの笑顔」が戻った時、二人の間にようやく本当の対話が始まったのだった。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-22 22:48:37
4207文字
会話率:0%
吉川はプロポーズをする夜、大切な人を失う。深い喪失感から自暴自棄になり、ただただ孤独な時間だけが過ぎ去ってゆく。八十八歳になる夜、誰に看取られるわけでもなくその生涯を終える。だが、そこで終わりでは無かった。かつての記憶も無く、異世界へと転移
させられ、姿かたちも老体のまま生かされた。そして出逢う。かつての伴侶に――折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-22 17:40:00
6689文字
会話率:7%
国の戦争の道具として育てられて来たルーペアト。
子供は将来、兵士や治療所で働けられるように教育される国だが、その中でルーペアトは剣の才能を発揮してしまい幼い頃から戦場に頻繁に駆り出されていた。
ルーペアトは養子で、両親とは血の繋がりがない
が愛されて大事にされている。
しかしある日突然、戦争によって一度に両親を失ってしまう。
大きな悲しみと喪失感で自我と心を失ったルーペアトは敵国の兵士を全て倒し、気がつけば戦争が終わっていた。
自我を取り戻したルーペアトは逃げるように走り続け、隣国で倒れ込んだ。
偶然通り掛かった伯爵夫妻に拾われ、そこで暮らすことになったはいいものの、最初は良かった扱いも悪くなっていき、成人後言われて出席した夜会で事件が起こる。
その解決に貢献したことで出会った公爵と、夫妻の家を出るために契約結婚をすることに。
お互いの利害の一致から始まった結婚だったが、噂とは違う公爵にいつの間にか大切にされていた!
しかし、ルーペアトと同じく、公爵も大きな過去を抱えているようで…?折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-20 07:00:00
356853文字
会話率:45%
三か月前に不慮の事故で幼馴染を亡くした高校二年生の時任清次は、その喪失感から学校にも行かず自宅に引きこもり状態で自堕落な日々を過ごしていたある日、ひょんな事から同じ高校の一年生である霧ヶ峰絵色と出会う。
自由奔放な霧ヶ峰に流されるまま
、一冊の本を読むように促される。それは冒頭しか書かれておらず、読んだ人間を眠りに誘い本の世界に引きずり込むという特別な本〝アンフィニシュトの書〟だった。
突如として本の世界に迷い込んで戸惑う清次の前に現れたのは、物語のヒロインであるユミルという少女だった。最初は警戒する清次だったが、彼女の何事にも前向きで他人の幸せを自分のことのように思える優しい気質が今は亡き幼馴染と重なり、親睦を深めていく。
しかし、平和な日常は続かなかった。本の世界に迷い込んで三日目、とある催事の最中にユミルが突然の死を迎えてしまう。
物語がバッドエンドを迎えたことで清次は現実世界に立ち戻り、霧ヶ峰から物語をやり直せることを聞いて決意する。
心優しい彼女に相応しいハッピーエンドを迎えさせてあげたい。
ユミルの死の真相を突き止めるべく、清次の繰り返しの挑戦が始まった────折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-16 08:34:32
132990文字
会話率:50%
女神のごとき社交界の華にしてカイル王子殿下の婚約者イナンナ·ルーベンスが不慮の事故死をとげた。
彼女の喪が明けぬ前に新たな婚約者候補を見繕う王家。ユリアンヌ·デフォーはその婚約者候補に抜擢された。
ユリアンヌは、愛する婚約者を亡くした
喪失感に苦しむ王子カイルと、愛する妹を亡くしたイナンナの兄ハーベイと関わることになってゆくが·····。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-15 22:01:31
26562文字
会話率:29%
2025年7月11日、主人公は喪失感に襲われていた。
最終更新:2025-07-12 16:21:32
633文字
会話率:34%
会社に行って、休日がやって来た。
けれども過ごし方が分からない。だから先週と同じよう様な事を知ってしまう。
古めかしい喫茶店、けれども此処がとても落ち着く。
華美じゃないのが良い。
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われた
ら申し訳御座いません。
上手い回答が出来ない人間なので、感想欄閉じてます。
これは読者様の問題ではなく、私の問題。
詳しく知りたい方は代表作の『作品と作者の注意点』に書いてあります。
注意事項2
筋通ってるかな。
感覚で物を書く時って、納得行くか行かないか、振れ幅が多いから。
黙って物が書けるのが良い世界。
そんな世界が増えてくれれば良いと思います。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-12 12:25:39
845文字
会話率:40%
記憶がなくても、戦える。
感情が消えても、“祈り”は残る。
世界崩壊後の地表を彷徨っていた私に、
最強兵装《祈装零号機ARISA》は語りかけた。
「あなたは選ばれた。祈りと共に、敵を殲滅せよ」と──。
それからの私は、戦うた
びに強くなっていった。
敵は一撃、異形は蒸発、味方からは“バグ”と呼ばれるほどに。
けれどその力の代償に、少しずつ、私の“なにか”が削られていく。
名前すら思い出せない少女。
けれど、祈装から響く“妹の声”だけは、どこか懐かしかった。
――この戦いの果てに、私は「誰だったのか」思い出せるだろうか。
最強祈装×異形殲滅×記憶なき少女
感情すら代償に変える、祈りの戦場へ。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-08 18:00:00
1202文字
会話率:0%
売れない小説家・慎太郎は、鬱病の治療のために入院していた。
そこで出会ったのは、脳の重い病を抱えた少女
明るく振る舞う彼女だったが、その病は進行すれば記憶を失い、いずれは命すら危ういものだった。
ある夜、少女は慎太郎に一冊のノートを託して
言った。
「私が私だった証が、全部ここにあるから」
それは、少女が綴った「やりたいことリスト」だった。
旅行に行く、小説を書く、誰かにお礼を言う――。
そして、最後のページには、
少女は間もなく病室で亡くなり、慎太郎の胸には深い喪失感が残った。
退院した慎太郎は、彼女の夢の続きを叶えるように旅に出る。
広島、北海道…さまざまな土地で人々と出会い、互いの孤独や傷に触れながら、慎太郎は少しずつ「書く意味」を取り戻していった。
数か月後、彼の小説**『優しさの首輪』**は10万部を突破し、大ヒットとなる。
母校での講演も決まり、かつて彼に深い心の傷を与えた人々の前で、本当の気持ちを言葉にする勇気も持てるようになった。
そして――。
『優しさの首輪』の書店サイン会を終えた慎太郎は、一人、吹雪の北海道の岬にいた。
ポケットには、少女のノートと、はな、智春との出会いが慎太郎を変えていく。
ノートの最後のページに書かれていた言葉が、慎太郎の胸に響く。折りたたむ>>続きをよむキーワード:
最終更新:2025-07-05 20:27:52
36507文字
会話率:73%
中学三年生のT君は、夏休みに入る直線にお母さんを事故で亡くした。陸上部である彼は喪失感を埋めるように走り続けるのだけど、軽い怪我をしたことをきっかけに、母が残した古い薄底シューズをはいてみることにした……
最終更新:2025-06-27 20:00:00
3715文字
会話率:17%
中学二年の春、桜が散り始めたある朝、主人公は幼馴染の彩音が突然転校することを知らされる。登下校を共にし、日々を当たり前のように過ごしていた彼女の不在に、主人公は戸惑いと喪失感を覚える。ホームルームで知らされた転校の事実に、現実を受け入れきれ
ない幼さと、それでも向き合わなければならない現実の間で心が揺れる。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-06-25 22:12:16
860文字
会話率:0%
未来都市に生きる大学生・河野は、かつて愛する母と恋人を亡くし、心に深い喪失感を抱えたまま日常を生きていた。感情を鈍らせるように無機質な生活を選び、AIの声や整った部屋に安らぎを見出す彼は、人との深い関わりを避けながら暮らしている。
ある朝
、母の温もりや失った恋人との記憶が交錯する夢から目覚めた彼は、大学へ向かう途中で倒れ込む女子学生と出会う。周囲が無関心を決め込む中、彼は本能的に彼女を助ける。薬を飲ませ命を繋ぎとめた後、彼は再び自分の殻に戻ろうと立ち去るが、彼女の「名前を教えてください」という言葉に、心の奥底でわずかに何かが揺らぎ始める。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-06-22 13:39:38
2190文字
会話率:34%
妻のカレンに浮気をされ、この世の果てにいた徳間純は、これまでに大きな挫折や喪失感を経験した事がなかった。それは裏返せば、無難な道ばかりを意図的に選んでいたという証だった。不測の事態に対応出来ない純は、所持金5万円を握りしめて、一度も訪れた事
のない土地“大阪”へと逃げ込んだ。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-06-24 21:03:51
8363文字
会話率:61%
久乃木柘榴(くのぎ ざくろ)の手元には、少し変わった形見がある。
小学六年のときに、病死した母の実家に伝わるおとぎ話。しゃべる犬と変わった人形が『宝石のご飯』を作って、お客さんのお悩みを解決していく喫茶店のお話。代々伝わるという、そのおと
ぎ話をもとに。柘榴は母と最後の自由研究で『絵本』を作成した。それが、少し変わった母の形見だ。
それを大切にしながら過ごし、高校生まで進級はしたが。母の喪失感をずっと抱えながら生きていくのがどこか辛かった。
父との関係も、交友も希薄になりがち。改善しようと思うと、母との思い出をきっかけに『終わる関係』へと行き着いてしまう。
それでも前を向こうと思ったのか、育った地元に赴き、母と過ごした病院に向かってみたのだが。
建物は病院どころかこじんまりとした喫茶店。中に居たのは、中年男性の声で話すトイプードルが柘榴を優しく出迎えてくれた。
さらに、柘榴がいつのまにか持っていた変わった形の石の正体のせいで。柘榴自身が『死人』であることが判明。
本の中の世界ではなく、現在とずれた空間にあるお悩み相談も兼ねた喫茶店の存在。
死人から生き返れるかを依頼した主人公・柘榴が人外と人間との絆を紡いでいくほっこりストーリー。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-06-14 14:05:00
186390文字
会話率:53%
1990年、主人公優の初恋の相手が、16歳という若さで病死した。
それからというもの優は、喪失感にずっと苦しみ続ける。やがて、心のバランスを崩し、鬱の症状やパニック症状が出始め、心療内科にかかる
そこでカウンセリングを受け、幼い頃の記
憶を紐解き始める。
優は、幼稚園の頃、広島で暮らしており、そこで翔という同い年の男の子と出会った。彼は、優をいじめっ子から守ってくれる優しい男の子だった。
優は、彼の母からの手紙で、彼が癌で亡くなったことを知る。そして、 大きなショックを受け、絶望し、生きる意味を見失ってしまう。
やがて心療内科に通い始め、服薬とカウンセリングのおかげで少しずつ症状が改善していく優。
大学生になると、大学のオーケストラに所属し、オーケストラの色んな人々と交流したりして、充実した学生生活を送るようになる。さらに、親友の兄 仁一に出会うと、その人が、以前自分が通っていた心療内科の担当心理士だったことが分かる。そして、仁一と親友が二人で暮らす家に、やがて優も一緒に暮らし始めることになる。
優は、様々な人と出会い、葛藤しながら、翔を失った悲しみを乗り越え、自分の大切な人が誰なのか気付いて行く。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-06-01 16:20:25
103869文字
会話率:26%
『パンの耳の揚げパン耳』は、昭和の商店街の片隅にある小さな家庭を舞台に、母親の手作りおやつ「パンの耳の揚げパン耳」を通じて描かれる家族の愛と記憶の物語です。主人公・健一は、忙しくても家族のために料理を欠かさなかった厳しくも深い愛情を注いだ母
親との日々を回想します。
貧しさの中で育ちながらも、母の手から生まれる揚げパン耳は、どんな高級なお菓子にも代えがたい「家族の絆の味」。反抗期、別れ、結婚、そして妻を失った喪失感——人生の節々に現れるこの揚げパン耳が、健一とその娘・由紀の心を繋いでいきます。
「耳も手をかければご馳走になる」という母の言葉に象徴されるように、本作は人生の端っこにあるものの尊さを丁寧に描き、読者の心に静かな感動を残します。三世代を通じて受け継がれる“味”が紡ぐ、温かくて切ない家庭の物語です。
折りたたむ>>続きをよむキーワード:
最終更新:2025-05-28 19:42:14
5339文字
会話率:37%
IT企業で働く田中翔太は、SNSの世界に溺れ、"いいね"という他者からの承認を求め続けていた。しかし、プラットフォームの仕様変更で"いいね"が廃止され、彼の築いた小さな世界は崩壊。現実世界では孤独感に
苛まれる日々が続く中、同僚の山口由香や幼馴染の佐藤亮との交流を通じて、デジタルでは得られない人間関係の本当の価値に気づいていく。そんな中、アコースティックギターが奏でられるカフェで、店員の春香に惹かれるが、彼女には婚約者がいた。失恋によって深い喪失感を味わいながらも、翔太は現実の痛みと喜びを受け入れ、デジタルの依存から解放されていく。最終的に彼は、画面の向こう側ではなく、目の前にいる人とのつながりを大切にしようと決意するのだった。折りたたむ>>続きをよむキーワード:
最終更新:2025-02-13 20:02:57
2773文字
会話率:23%
王国の名家に生まれた公爵令嬢アリアは、二人の年上の幼馴染と兄妹のように育った。
一人は、忠誠心厚くまっすぐな青年リオ──王城の近衛騎士として仕えており、アリアの初恋の相手。
もう一人は、優しく穏やかで未来を約束された婚約者エルヴィン──アリ
アの夫となるはずの人。
子供の頃から決まっていた未来。けれどアリアはリオへの想いを隠しきれず、叶わぬ恋を抱いたままエルヴィンと結婚する。
時が経ち、リオは王城を離れ、アリアは穏やかな家庭を築いていた。
しかし、ある日届いた「リオの死」の知らせ。心が壊れるほどの喪失感に沈むアリアの前に、謎の魔術師が現れる。
「時間を巻き戻してやろう。ただし、おまえの命を対価に」
アリアは取引に応じて過去に戻り、何度も何度もリオとの未来を変えようとするが──
その度に、彼との未来は崩れ、アリアの寿命は削られていく。
それでも彼を愛さずにはいられない。
これは、命を懸けた、執念の純愛物語。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-26 21:56:01
17450文字
会話率:17%
人間関係に疲れ、SNSの喧騒から逃れるように、螢は深夜のチャットルームに安らぎを見出す。ハンドルネーム「カゲロウ」と名乗る顔も知らない相手との静かで優しい交流は、いつしか彼女にとってかけがえのない時間となっていた。
しかし、カゲロウの突然の
消失は、螢に深い喪失感と問いを残す。彼は一体誰だったのか? あの温もりは本物だったのか?
これは、デジタルの海で出会った束の間の繋がりと、そこから現実世界へと踏み出す小さな勇気を描く、現代の心の物語。霞むような寂しさと、確かな温もりが交差する。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-24 16:40:53
3634文字
会話率:36%
かつて''無血''の少年がいた。
彼は名もなき家に生まれ、ただ静かに幸福に生きていた。しかし、ある日を境にその全ては静かに崩れ落ちる。そこに残ったのは深く濁った怒りと決して晴れることのない喪失感だけだった。一人残った少年は世界に背を向け、魔
術という禁忌に手を伸ばした。復讐のために選んだ力はやがて少年を''最強''へと変えた。喪ったものを埋めるようにして、自分の存在を刻もうとした。最初はその力に歓喜し全てを操れると信じて疑わなかった。だが次第に力が彼自身を蝕み始める。彼は正義を語りながら誰よりも多くを壊し、そして静かに消えた。
━━だが、運命は残酷だった。
終わったはずの命がある日、違う姿で目を覚ます。
過去とは違う名、違う血、違う場所。それでも心はあの時のまま。今の彼はかつて敵と見なした世界に、今は''中の人間''として生きている。誰よりも忌み嫌った場所で、世界で最も軽蔑し、否定し、滅ぼそうとした血を自分の中に抱えながら誰よりも笑っていた。誰にも知られず、かつての名も過去も復讐も封じたまま生きていく彼が異なる視点で見たものはかつての怒りでは気づけなかった温度だった。血では測れない痛み、立場によってゆがめられる正義。「敵」だと思っていた存在にも痛みがあり、恐れがあり、守ろうとしている何かがあるということを。あの時見えなかった景色に少しずつ気づいていくなかで、自分の中に積もった痛みと後悔の重さを彼はようやく知ることになる。それでも彼は自らの罪から目を背けるように、ただ戦い続けていた。
そんな彼の歩みを変えたのは1人の存在だった。そばに誰かがいて、名前を呼ばれ、手を引かれるたびに忘れていた温度を、心の奥にかすかに思い出すようになる。
しかし強さは彼を守らなかった。むしろ強くあろうとした日々が彼を一層脆くした。
今も魔術は彼のそばにある。けれど、それを使うたびに世界が少しずつ遠くなるような気がしてならなかった。それでも彼はその力を手放さない。今度こそ守りたいものがあるからだ。自分のようになってほしくない者たちがいるからだ。同じ傷みを背負わないように、背中を押すふりをしてそっと引き止めるように。
誰にも知られぬまま、彼は歩いている。
魔術使いでありながら、それを戒め、愛し、恐れている一人の人間として。
彼は今日も''無敵''という仮面を被り、脆く、優しく戦っている。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-18 22:29:31
11079文字
会話率:32%
瞬時に思考が繋がり、死者さえAIで蘇る――そんな未来で、人は「魂」をどこに見出すのか?
舞台は2085年、量子情報ネットワークが日常に浸透した東京。人々の意識は常に接続され、情報は瞬時に共有される。「便利すぎる」とも言えるこの時代、ケンジ
は数年前に亡くした妻・ユミを忘れられずにいた。
彼が選んだのは、ユミが生前遺した膨大なデータを基に創られたAI「ユミ・エコー」と共に暮らすこと。声、仕草、記憶――エコーは驚くほど完璧にユミを再現し、ケンジの深い喪失感を癒やしてくれるはずだった。それは、失われた愛を取り戻すための、最後の希望のように思えた。
しかし、すべてが繋がり、共有される世界にケンジは次第に違和感を覚えていく。情報の洪水の中で希薄になる個人の内面。表層的な共感だけで満たされた社会。そして、完璧なはずのユミ・エコーとの対話の中に、決してデータでは再現できない「温もり」と「魂」の決定的な不在を感じ始める。
「そこにいるのは、本当に君なのか…?」
AIは人の心を完全に再現できるのだろうか? 技術はどれほど進歩しても、変わらない人間の弱さ、そして愛すべき愚かさとは?
『残響室』――繋がりすぎた世界が皮肉にも生み出した、新たな孤独の形の中で、真実の愛と喪失の意味を静かに問いかける。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-17 17:40:00
19447文字
会話率:26%