私がイヤフォンを両耳に付けるのとほぼ同時に、彼は動画の再生ボタンを押した。映像は真っ暗なままだった。そして景色を持たない映像の先から、音だけが流れ込んでくる。駅の近くや目抜き通りでよく耳にする多人数の声が絡み合う雑踏で聞くような音の中にあ
って、すっと心地よくひとつの歌声が聞こえてくる。私はその時まで一度も聞いたことのなかった曲だが、だいぶあとになって九十年代に大ヒットした有名なJ-POPだと知った。
〈他の小説投稿サイトでも重複投稿しております(note、ノベプラ、カクヨムなど)〉折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2021-10-08 15:16:10
8206文字
会話率:36%
道行く人々。そのなかにふと、かつて見たような人がいた。
二昔も以前、一寸関わった人に良く似ていたのだ。
かつて小さな街で小さな事件が起きた。
彼が事件を起こす引金は私だったのかも知れない。
雑踏にはもう、彼の姿はなかった。
最終更新:2021-05-25 01:22:46
12362文字
会話率:0%
かつて大学生だった頃、S君という馴染みの友人がいた。
良く似た二人はすぐに仲良くなった。
しかしある日S君は突如として姿を消してしまったのだった。
二十年以上経った今、忘れかけていた思い出がやけに鮮やかに甦ってきた。
最終更新:2020-09-08 01:19:48
11269文字
会話率:0%
九十年代の中頃、岐阜県の農村地帯。ある一家が、母屋の隣に離れを増築するため敷地を掘った。まだ冷える浅春の道々、娘の幸子が学校から帰ると、家の前に人だかりが出来ていた――。それから十数年経ち、大人になった彼女は、安穏とした生活を送る一方、わけ
もなく迷い、繰り返す毎日に物足りなさを覚えている。平凡な女の埋もれた記憶が揺り起こされた時、待ち焦がれた甘い秘密は、暗い底に隠した正体をあらわにする。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2010-10-22 02:10:36
82291文字
会話率:1%