死は常にその背に寄り添い、生に対して甘美な夢を囁く。
生まれた時から私の存在は生きていても死んでいてもそう大して代わり映えがなく、今となっては死んだ方がましという有り様だ。
私はもうずっと、どちらつかずのままその中間に佇んでいる。
その間にも生と死との境は曖昧に滲み続け、手を伸ばしたそこで私はいつでも死を掴むことができた。しかしながらこの死は触れた途端に嬌声を上げて身を捩り、まるで陽炎のごとくするりと私の手から逃れ去ってしまうのだ。そしてこの手の中には虚ろな生だけが残され、まるで陽光に晒され乾いた砂のようにさらさらと儚く零れ落ちていく。
私という存在は色もなければ味もない。音もなければ香りもない。
ただそこにあり、ただここで澱のように沈んでいる。
そのように鬱屈した日々を過ごしていたある日のことだ。私は古びて朽ちかけた教会でひとり夜を明かすはめになった。今では村人でさえ顧みることのない、森の奥の名もなき教会の、その中で。
あの日の私は、今となっては理由さえ思い出せない些細なことでウドと諍いし、煮えたぎる怒りを冷ますためがむしゃらに馬を走らせていた。そしていつしか森の魔性に捕まり、気付けば帰り道を見失い、情けなくも途方に暮れていたまさにその時、その教会は何の脈絡もなく、まるで影の隅からぬるりと抜け出すような不快さと唐突さで私の前に立ちはだかったのだった。
何とも妖しい教会だった。
その悍ましい外観を見つめるだけで私は身震いし、人の業では成しえない何かを感じて思わず息を飲み、そして胃の底から湧き上がる悪寒の前に戦慄した。しかし何の矛盾か、その姿は私の中に筆舌しがたい敬虔な気持ちも同時に掻き立てたのだ。私はただ、その異様の姿を前に立ち尽くすことしかできなかった。
何とも不思議な教会だった。
入り口の扉はすでに時の彼方へと消え去り、置き去りにされたように開いた暗い穴が静かな闇の息遣いを反射する。
しばらくして我に返った私は馬を降り、余計な音を立てぬようそっと中に足を踏み入れた。恐怖や畏敬の気持ちよりも、その瞬間だけは好奇の気持ちが勝っていたのだろう。
数歩を歩けばすぐに、聖堂の僅かな広がりが私を迎え入れた。
満月の夜だった。
月明かりが失われた天井から煌々と降り注ぎ、歳月に沈む過去を柔らかく照らし出していた。
私はそこで、見つけたのだ。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2024-07-15 19:27:44
14793文字
会話率:12%
伯爵令嬢のゼゾッラは父の死後、継母たちに冷遇され、使用人以下の扱いを受けていた。
ある日、今までになく身なりを整えさせられ、使いにだされたのだが。森の中で盗賊に襲われてしまう。
死を覚悟したゼゾッラを助けたのは、ひげ面の魔法使いと、陽気で不
思議な白鳩とナツメの木だった。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2023-08-29 22:01:55
13224文字
会話率:44%
神々が形作り、精霊たちが自然の恩恵を行きわたらせる世界“マーニス”。
その世界の片隅に一組の男女がいた。
兄妹以上に親密に育った幼馴染だった。
2人は冒険者をしていたが、いつしか2人の関係は対等なものではなくなっていた。
男は光
の戦士と称えられる一方、女は陰の娘と呼ばれて男に虐げられていたのだ。
そして、とうとう足手まといといわれて、仕事からものけ者とされてしまう。
そんなことになってしまった女は、ついに自立を目指し始める。
ところが、それをきっかけに男の様子も変わる。今更女に執着するようになったのだ。
けれど、2人の関係はもはや修復不可能な状態になっていた。
そして、男の行動の為に、2人の関係は完全に決裂し、全く別なものとなってしまうのである。
*過去に「光の戦士と陰の女と呼ばれた2人の物語」というタイトルで投稿していた作品です。若干加筆修正しただけで、ストーリーは変わっていません。
*当然ながら完結まで投稿する事を保証します。
*剣と魔法の疑似ヨーロッパ的ファンタジー世界観を背景としています。
*暴力的な表現を含みます。女性がその対象となる事もあります。
*私が連載している他の作品(エッセイを除く)と共通する世界を舞台にしており、他作品に登場する人物もいますが。ストーリーは単独で完結させています。
*字数は約40,000字、全15話に分けて投稿します。
*5月21日中に7話まで投稿、以後完結まで毎日1話ずつ投稿します。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2022-05-29 10:19:18
41509文字
会話率:21%
佳奈の閉じられた瞼がぴくぴくと動いた。
僕は佳奈の細い手を握る。まるで、骨のように細い指は少し動かしただけで、折れそうだ。
佳奈の薄い紅の唇に僕の唇を合わせる。冷たい唇は「死」を感じさせる。僕は生きていて、佳奈は半分死んでいるようだった。も
し代われるなら僕が死んだ方がましだった。
佳奈の心臓が悲鳴をあげていた。カメラマンを目指す僕は。恋愛小説です。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2022-03-06 17:29:35
2865文字
会話率:9%
死にたいと思った事ありますか?死んだ方がましだと思った事ありますか?この話は、そういう若者たちの話です。生きている意味あります?死にますか?
最終更新:2022-02-25 20:23:41
8290文字
会話率:49%
愛を乞うなら、死んだ方がましだと
キーワード:
最終更新:2021-01-31 00:12:56
244文字
会話率:0%
檜山 守(ひやま まもる)は自殺したー、はずだったが気がつくと「生命バンク」にいる。
「世の中には、『生きているぐらいなら死んだ方がまし』という人(ドナー)と、『命を捨てるぐらいなら私に下さい』という人(レシピエント)、二種類の人間がいま
す。そこで出来たのがここ!生命バンクってわけですよ。いわば要らない命をほしい人にあげる仲介役ってとこです。」
守は「ドナー」となり、大勢いる「レシピエント」の中から、自分が捨てた残りの寿命を分け与える人を選ぶ選考面接を行う。その面接を通して個性的な人物たちと出会い、人間の複雑さに触れる。そしてその中で、守はかつての「戦友」と再会する。恋人でもなければ親友でもない彼女は、守の世界が壊れたきっかけであった。2人が再び「同盟」を結んだ時、物語は加速するー。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2020-06-30 19:22:02
50153文字
会話率:56%
『りんごを食べるくらいなら、死んだ方がましよ!』
白雪姫の美しさを妬んだお妃様は、毒入りのりんごを食べさせて殺そうとしますが……。
冬の童話祭2018参加作品です。童話になっているのか大分怪しいですが、楽しんで頂ければ幸いです。
最終更新:2018-01-03 17:23:05
6170文字
会話率:45%
吸血鬼に心臓を奪われると、死ぬことができなくなるという。
イルソンはある村で、吸血鬼に殺されたと思われる殺人事件に遭遇する。それはイルソンの過去の出来事を思い起こさせ、焦りを生むが……。
*アンソロジー不殺遊戯http://yugi.sk
yparametric.com/に、参加させていただいた作品です。
死んだほうがまし、がテーマでした。
(紙の本のほうはイラストをつけていただいたので、ぜひあのすごい絵を見て頂きたい!)折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2017-04-29 17:00:00
9547文字
会話率:33%
3ヶ月以内に殺されなければ吸血鬼として覚醒し人々を吸い殺す事になる。そんな化け物として永遠を生きるくらいなら死んだ方がましだ。人間と吸血鬼との間に生まれた小鳥遊 蓮美(たかなし はすみ)は18歳の誕生日を迎えると吸血鬼の血が覚醒し完全な吸血
鬼となり、永遠の時を生きなければならない。蓮美が吸血鬼になることを恐れた蓮美の両親は婿を探し、蓮美を殺させようとする。そんな時現れた青年、王路 岬(おうじ みさき)は蓮美を殺すために来たはずなのに蓮美に好意を寄せている素振りを見せる。岬の目的は何なのか。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2015-04-25 00:02:50
8885文字
会話率:60%
元・特別戦闘部隊の少年は特級戦犯者として
一生を暗い檻の中で過ごすことになっていた。
死んだ方がましなのではないかと思うほど
変化のない日々の中で、精神的に衰弱していくうちに少年は度々現実味のない世界に迷いこむようになり、そこで一人の少
女と出会う。
飾り気のない、純粋な心を持つ少女に惹かれていく少年
しかし、その少女は昔、戦争中に少年の手によって命を絶たれた少女だった。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2015-01-30 21:49:29
1430文字
会話率:4%
───あれは何なのだ。私が2本足で立って、前足を真横にぶらさげて、全身の毛を丸刈りにしたら、案外ああいう生き物になったりするのだろうか。死んだ方がましである。あの不気味な生き物の名前は分からないが、私は彼らを仮に、「ネコ」と呼ぶことにしよう
───。名もなき猫と、人間との切ない交流をえがいた、読み切り・ショートストーリー。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2009-09-25 01:03:37
3408文字
会話率:18%