婚約者・澪を事故で喪った青年・律は、最期の瞬間に「行かないで」の一言を伝えられなかったことを悔い続けていた。
彼女の笑顔も声も夢の中で再生されるほど、想いは形を変えられずに心を縛りつけていた。
そんなある日、律は現実と記憶の境界が曖昧にな
る奇妙な感覚に包まれ、気づけば**「魂の書架」**と呼ばれる空間に迷い込む。
そこは、記憶と感情、そして魂が本のように蓄積された静謐な図書館だった。
案内人として現れた謎の少女は言う。
「この場所は、あなたが“もう一度会いたい”と願ったから開かれたの」
「でも――本当にその想いが届くかどうかは、あなた自身の“魂”次第」
律は、魂の書架に眠る澪の記憶へたどり着くため、自分の心に刻まれた後悔・未練・愛の断片を“本”として開いていく。
だがその旅の中で、彼は気づき始める。
自分が見ていたのは「澪との過去」ではなく、「伝えられなかった想いの形」だったのだと。
そして旅の途中、律はふとした瞬間に気づく――案内人の少女の姿、声、仕草……そのすべてが、どこか澪と重なっていることに。
少女の正体は、澪が死の間際に抱いていた「言葉にならなかった想い」の残滓。
澪の“魂の影”だった。
律の魂が過去と向き合い、選択を繰り返し、ようやくたどり着く最終の記録。
そこで彼は、本当の澪と再会する。
伝えられなかったあの日の言葉を、今度こそ彼女に届けるために――。
この物語は、記憶と魂の深層をめくるように綴られる、もうひとつの「再会」のかたち。
たとえもう戻れないとしても、
たとえもう叶わないとしても、
愛する人の魂と、もう一度だけ向き合うための物語。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-10 00:20:00
36078文字
会話率:14%
24歳の蒼井陽は、年末の帰省で実家の部屋を片付けている時、引き出しの奥から片方だけのイヤホンを見つける。それは高校時代、恋人の成瀬みなみと片耳ずつ分け合って音楽を聴いていた、大切な思い出の品だった。
高校2年の春、図書館で出会った二人。内向
的な陽と、音楽への情熱を持つみなみは、「片耳ずつイヤホンを分け合う」という小さな約束から心を通わせていく。Luneの「空、もうすぐ雨」、Amber Waltzの「イヤホン越しの君へ」─共有する音楽が、二人の距離を縮めていった。
恋人同士になった夏は、音楽に包まれた幸せな日々。しかし高校3年の秋、進路への価値観の違いから二人の心は離れ始める。音楽の道を目指し東京へ向かうみなみと、地元の大学を選んだ陽。やがて二人は別れを迎える。
6年後、陽は偶然にもみなみの音楽活動を知る。彼女が歌う「Half Song」には、あの頃の二人の記憶が込められていた。片方だけのイヤホンで聴く彼女の歌声に、陽の封印された想いが蘇る。
伝えられなかった気持ちと向き合う陽。果たして、二人の物語はどのような結末を迎えるのか──。
青春の甘酸っぱさと別れの痛み、そして静かな再生を、音楽と片耳イヤホンという繊細なモチーフで描く、心に響く青春小説。折りたたむ>>続きをよむキーワード:
最終更新:2025-07-09 23:07:22
15209文字
会話率:42%
港町ルセナ。古い石畳と港の風が入り混じるこの町の片隅にひっそりとたたずむスタジオ。青年ルカは、ここで師と仰ぐ熟練教師マリアから「テクニーク」と呼ばれる技法を伝える教師となるべく学んでいる。
今日も問題を抱えた人物がマリアを頼ってスタジオを訪
れる。身体の痛み、精神の不調、舞台での不安・・・。人は皆、さまざまに異なる悩みを抱えている。
「テクニーク」を通して人々と向き合うマリアとそのプロセスに間近に接することで、ルカは少しずつ「テクニーク」の深淵と自分自身の課題と向き合っていく。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-09 22:00:00
11829文字
会話率:42%
春の人事異動で出会ったふたり――日々の仕事に丁寧に向き合う優衣と、環境の変化に静かに身をゆだねる昌宏。仕事と家庭の両立に追われるなかで、優衣はいつしか自分自身の時間を見失いかけていた。一方、年齢を重ねた昌宏にもまた、口には出さない孤独や疲れ
があった。何気ない会話、交差する眼差し、小さな共感の積み重ねが、ふたりの距離を少しずつ近づけていく。華やかではなくても、確かに胸に灯るものを見つけながら、それぞれがもう一度、自分の人生と向き合っていく物語。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-09 20:52:14
59445文字
会話率:20%
淡々と過ぎる日常の中、得体の知れない焦燥感を抱きながらも惰性に身を任せ毎日をこなすように送る主人公 穂高は、ある日突然知らない異世界<アス>に迷い込んでしまう。そこは、四季や食べ物、言語ーー似通ったものがある一方で昨日まで当たり
前にあったものがない、穂高にとっては生きにくくも刺激的な世界だった。
出会う全ての者たちと紡ぐ命の終わりに向き合う少年の物語。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-09 08:03:11
14393文字
会話率:19%
11世紀、曲がりなりにも続いていた律令国家はグズグズに腐り、その残影を残すのみとなっていた。平安京が任命する国司たちは六十余国の支配を地方の新興領主に切り取られ、やがて中央も平安京に有力者をさぶらうもの(侍)として呼び寄せ警護、軍事を任せる
ようになる。武権が国の拠って立つところなら、この時に時代は変わっていたのだろう。
中国大陸から大量の銅銭が怒涛のように押し寄せ、通貨の鋳造を辞めた日本という世界は、やがて院政を開始。上皇が大陸からなだれ込む物品をはじめとする外因、そして動乱の内政を含む内因からなる波乱の時代に向き合うこととなる、「中世」の開始だ。その古代の終わり、中世の始まりのあわいに起こった巨大な戦い源平合戦。その中で勃興し、栄華を極め、滅びた平家への魂の鎮め。それが平家物語。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-09 07:25:56
16265文字
会話率:44%
魔道具士となった少女、ルルシュカには、どうしても見つけたい指輪があった。
だがそれを持つのは、かつて彼女が裏切り、命の代わりに魔力と名前を奪って見逃した仲間の子供――何も知らぬまま成長した青年、アラン。
ある日、彼女の過去を伴って現れた彼は
言う。
「指輪を譲る代わりに、僕を店で雇ってよ」
ヘラっと笑うアランを雇うことにしたルルシュカ。
師弟とも言えない奇妙な関係で結ばれた二人は、
彼女が終わらせたはずの過去と向き合うことになる――。
▪️しっかりとしたあらすじ
孤児だった少女は、最強と呼ばれる従軍魔法士となった。
だが彼女は、かつての仲間を裏切り自らの手で殺した過去を持つ。
死を偽装し、子どもの姿で“ルルシュカ”と名乗った彼女には、どうしても見つけたい指輪があった。
それを探すため、魔道具士へと転身した彼女は、黒猫トムと共に魔道具店を開きひっそりと暮らしていた。
ある日。
魔力を持たない青年アランが、長年探していた指輪と共に彼女の前に現れる。――彼は、15年前に殺した仲間の子供であり、抹殺リストから密かに除外された存在だった。
ルルシュカからその指輪を探していた。と告げられたアランだが、彼は自身の過去を知らない。
指輪と引き換えに、魔道具店で働きたいと取引を持ちかけるアランを、ルルシュカは渋々受け入れることに決める。
「あのガキ、いつまで面倒見る気だ?」
「さぁね。最近の子はすぐ飽きるって聞くし」
トムの問いに軽口を叩くルルシュカの思惑とは裏腹に、彼女が終わらせたはずの過去が、アランを通じて静かにその幕を上げ始めていた――。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-08 22:22:46
121479文字
会話率:32%
死ぬたびに“残機”が減っていく世界。人は生まれたとき、たった3つの命しか持たない。ゼロになれば、その瞬間──完全に消える。
高校生・ユウリ・フィリアは、謎の光に包まれ、突如として異世界に転生する。腕には“3”の数字。そして目の前で、人の命
が簡単に奪われる現場を目にしてしまう。
「残機は、奪える。」
この世界では、相手の体力を削った後、その右腕に触れることで残機を“1”減らすことができる。残機が残っていれば近くに復活できるが、ゼロになれば二度と戻らない。
恐怖に震え、洞窟に引きこもって生きる日々の中、ユウリは“妹を失った少女”レイナ・フィーネと出会う。優しげな笑顔の奥に復讐の炎を宿すレイナは言った。
「……一緒に、あの悪党に復讐しよう?」
戸惑いながらも、ユウリは“命を奪う”ことと向き合う決意をする。
これは、“限りある命”の世界で
――誰かの命を救うために、自らの残機を懸けて戦う物語。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-08 13:32:39
3636文字
会話率:36%
15歳にして絶頂の人気を誇るアイドル、姫歌(ひめか)・スターアントワネット。
彼女は天性の才能と美貌を持ち、武道館を満員にするほどの歌唱力を誇っていた。
しかし、その裏では「愚民どもを支配する姫君」として己の才にうぬぼれ、周囲を見下していた
。
そんな彼女が異世界へと転生したとき――その世界の「歌」は、命を削り聴衆に分け与える聖なる行為だった。
「誰がそんな自己犠牲をするものか!」と反発する姫歌だったが、ある少女・ノォトと出会い、次第にその世界の厳しい運命を知る。
やがて聖女として祭り上げられた姫歌は、王家の命令により大規模コンサートへと招かれる。
しかし、歌うことはすなわち自身の命を削ること――
命を落としてなお誰かを救いたいと願う聖女たちの壮絶なステージを目の当たりにし、彼女は「歌う意味」を問うことになる。
「私の命に、世界が飢えている。」
これは、かつて傲慢だった少女が歌の本質と運命に向き合う壮大な物語。
歌で世界を巡り、誰かの希望になりながら、彼女は本当の聖女へと成長していく――
魂を震わせる異世界アイドル×命の歌ファンタジー!
姫歌が選ぶ未来とは――!?折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-07 19:07:01
30074文字
会話率:30%
長野のとある日本屋敷で起きた誘拐事件。
事件のせいで双子の弟を失った「私」は、高校を卒業すると同時に上京。地元から距離を置いた。
それから数年。
父危篤の報を受け、私は故郷へ帰る。実家はいつの間にか、木彫りの狼に囲われた薄気味悪い屋敷と化し
ていた。
そこで不思議な少女、桃山花乃(ももやまかの)と出会った私は、謎と向き合うことを決意する。
幽霊×本格ミステリ。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-07 17:41:01
125176文字
会話率:49%
登山好きな青年・山本圭介は、ハイキング中に迷い込んだ山奥の神社で閻魔大王と出会う。閻魔から「地獄に堕ちるか、ダンジョンマスターとして働くか」の選択を迫られ、圭介はダンジョンマスターとして転生することに。
ダンジョン運営には魂ポイントが必要
で、一億ポイント集めれば人間に戻れるという約束を信じ、圭介は毎日魂を集めながら運営を続ける。しかし、次第にダンジョンで奪った命や過去に向き合うことになり、人間に戻ることが本当に意味があるのか疑問を抱き始める。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-07 12:11:50
1218文字
会話率:36%
才能について、考えたことはあるか?
才能とは、絶対的に存在している不変の事実だ。
人は努力不足、自己責任論をかなり使うが、この才能の部分がなければどうにもならない。
曰く、才能はダイスの目で例えられる。
世界とは1を出したも
のが成功する世の中である。人は1が出るまで努力という対価を犠牲にしダイスを振り続ける。
だが、間違えてはいけない。人が降るダイスには個体差があるということを。
ダイスの目が6面ダイスの人間もいれば、20面ダイスの人間もいる。
また、100面や200面ダイスの人間もいるのだ。
その中で、全員平等に1を出すことを義務付けられる。それが社会。
それならば、あぶれるものも出てくるだろう。何せ彼らには100面ダイスしか持っていないのだから。運がない限り成り上がれない。
それが事実だ。事実は不変であり、無常である。
彼らがどれだけ感情論を言おうと、どれだけ人に冷たくしようとも、変わらない事実なのだ。
さて、話は変わるが、君たちは無能に対して努力不足や自己責任論を説いたことはあるか?
そして、彼らに対して、消えろと思ったことはないか?
この物語は、ここから少し先の未来の話であり、そして、いつか訪れる。
変わらぬ未来の話だ。
では、出だしはここから始めよう。
この物語は、人が罪と向き合う物語と。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-07 11:59:50
541文字
会話率:0%
古びた洋館、沈黙の家族、そしてまた一人、死者が出た。 だが、誰も驚かない。誰も泣かない。 それでも、マルコス探偵は現場に足を運ぶ。 疲れた目で、嘘を見抜き、沈黙の中に潜む真実を拾い上げる。
母は神と話し、娘は音に逃げ、甥は皮肉で武装する。
そして、死体だけが礼儀正しい。
これは、疲れた探偵が今日もまた、 “語らない死体”と“うるさい沈黙”に向き合う物語。
――死体は語らない。だが、沈黙はうるさい。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-07 07:30:00
5652文字
会話率:30%
ある日の王宮での夜会にて。
その庭園で向き合う男女がいた。
貴族令嬢であろう女は涙を流し、姉に監視されていると目の前の男に訴えるが……
最終更新:2025-07-07 06:40:00
6269文字
会話率:31%
雨上がりの夜、風呂場でぽつりとこぼれた一言──「河童になりたいな」。
中年会社員・秋庭修司の口から自然と漏れたその言葉を皮切りに、過去の記憶と現在がじわじわと交錯を始める。
忘れていたはずの少女、千波。
川辺で姿を消した、ひと夏の記憶。
一方、娘の美羽が描き出したのは“皿を背負った緑の影”。
静かな日常にじわりと染み出す異常。
水の匂い、濡れた髪、誰かの声。
これは幻想か、祟りか、それとも──
「父として見て見ぬふりをしてきたもの」と向き合う、
湿度100%の現代異界譚。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-07 01:00:00
28505文字
会話率:16%
「この世界は、猫に管理されている。」
高校二年生の東條シンは、ある日突然、猫の姿に変えられてしまう。
理由もわからぬまま、彼は人知れず、猫としての奇妙な日常を送ることになる。
やがて明かされていく、“世界の裏側”。
表向きには世界平和と
秩序の維持を目的とした《世界方針機関(ノイカッツェン)》――
その実態は、猫たちが人類社会を密かに管理している組織だった。
猫として生きる中で、シンはノイカッツェンの深部に触れていく。
守るべき日常と、暴かれる真実。
これは、少年が猫となり、世界と自分の謎に向き合う物語。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-06 23:52:30
174660文字
会話率:22%
ソフィー・ブランドは、チェシーヌ王国で話題沸騰の新星。統括者の一人であるリードとの決闘に勝利したことで、貴族や統括者たちの注目を一身に浴びる。ある日、突如開かれる豪華なパーティーに招待されたソフィーは、華やかなドレスと神秘的なヴェールを身に
まとい、仲間たちと共に城へと向かう。そこでは、彼女を「自由のお人形」と称する者たちや、隣国の騎士団長ユーリ・ラグナスとの出会いが待っていた。ユーリの贈る龍の爪のペンダントや、彼の突然の告白に戸惑いながらも、ソフィーは自分を取り巻く好奇の視線と向き合う。
一方、パーティーの裏では、近づく演武大会を巡る不穏な動きや、ソフィーを狙う謎の存在が蠢く。リードや華來、妹のヒル、そして神獣ウエルや魔剣シュオルといった個性的な仲間たちに支えられ、ソフィーは自分の「自由」を守るため、輝く夜の中で一歩を踏み出す。美しさと強さを兼ね備えたソフィーの物語は、友情、恋、そして隠された陰謀が交錯する折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-06 22:28:29
16253文字
会話率:98%
小さい頃からごっこ遊びが大好きだった少女・本宮ひのり。
高校入学をきっかけに、“本物の演技”と向き合う決意をする。
舞風学園で出会ったのは――
文才に長けた幼馴染・伊勢七海。
明るく元気なムードメーカー・小塚紗里。
人見知りで内気な少女・
城名みこ。
そして、かつて子役として活躍していた宝 唯香。
演技経験ゼロ、部活もゼロからのスタート。
衝突、涙、葛藤、そして“舞台に立つ歓び”。
これは、5人の少女たちが夢を追いかけて“本物の舞台”へと踏み出す、
等身大の学園青春ストーリー――。
舞風学園演劇部、いざ開幕!
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-06 21:48:23
135822文字
会話率:45%
母が亡くなり中学式の卒業式翌日、途方に暮れていた僕(周)に、奨学生なら衣食住が無料だとして全寮制の男子校へ入学するよう、後見人を頼まれたという理事が言う。縋るもののなかった周は、寮の同室者の天海や、学園内にある不思議なサロン、クラスメイ
ト達と関わりながら、代々選出される『レオナルド』という存在や、自分も含めて“子”と呼ばれる者がいる特別クラスの理由を探る中で、真実と向き合う。(他サイトにも掲載しています)
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-06 18:22:19
4054文字
会話率:49%
セレス・ノード──それは地球に設けられた、人類最高水準の研究設備と知性が集う先端研究施設であり、重力構造の制御や多次元空間理論、意識と場の共鳴といった、境界領域の知を実践的に扱う中枢でもある。その活動の一部として、異星知性体エリディアンに関
する研究や接触も進められている。
15歳の少年、リュシアン・モレルはその学苑で学ぶ学生のひとり。物理学への探究心を抱きながら、最近ではアーク・コンダクターへの志望に心を引かれている。
重力場と意識を共鳴させ、空間そのものに働きかけるこの役目は、単なる操縦士ではない。
限られた訓練生だけが選抜される、いわば「重力と宇宙を読み、導く者」。その訓練は、人間の認識や反応の限界にまで踏み込み、従来の科学と常識の枠を超えた負荷を強いられる。操縦というより、空間と同調し、力場そのものを“感じて制御する”感性が求められる役割だ。
自分がそこにふさわしいかどうか、リュシアンはまだ答えを持っていない。
ある日、論理学の新任講師として赴任してきたソリテーション──ティス・エラとの出会いが、リュシアンの思考と感受性にゆるやかな変化をもたらしていく。
彼女の講義は、論理と思考の構造そのものに踏み込むもので、生徒たちの関心を強く引いた。
彼女は、タイタンの湖底で進化したエリディアンという知性体の投影体であり、人間のように話すが、その内面は異なる法則で動いている。
彼らは音や振動を使って、言葉よりも深い部分で意図や感覚を伝え合う。リュシアンにとって、彼女の語る論理はどこか遠く、だが不思議と引き込まれるものだった。
生徒たちのあいだには見えない隔たりが生まれ、言葉にしにくい緊張も生じる。
リュシアンもまた、ティスとの対話を通して、自分自身の過去、迷い、そして何のために進むのかという問いと向き合うようになっていく。
学苑に残るか、宇宙へ出るか──その選択は、自分という存在をどう捉えるかに関わっていた。
この物語が描くのは、遠い未来や異星との邂逅ではない。
まだ答えの出ない問いを手に、誰かと共に考えながら前に進もうとする、ひとりの少年の姿である。
答えは示されないまま、物語はそっと閉じられる。
けれど、その問いは、どこかでまだ続いている。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-06 12:00:00
52938文字
会話率:20%