七十二歳の男性が主人公の心理小説。妻を亡くして十五年、平穏な老後を送っていた彼の心を突然揺さぶったのは、図書館で出会った六十四歳の既婚女性への恋心だった。
雨の日曜日、管理施設からの電話で一日の計画が狂わされた主人公は、午後に曽野綾子の『老
いの才覚』を読み返しながら、自らの感情と向き合う。彼女は知的で上品な女性だが、夫がいる身。週に二度会うまでになった二人の関係に、主人公は深い愛情と同時に激しい罪悪感を抱いている。
物語は主人公の内面の独白として展開し、『老いの才覚』の各章を引用しながら、老いと愛、道徳と欲望の間で揺れ動く心境が丁寧に描かれる。亡き妻への想いと現在の恋心の違い、既婚女性を愛することの罪深さ、そして七十二歳で経験する人生最後の激しい恋への戸惑いが、繊細な筆致で表現されている。
この禁じられた想いを決して口にすることができない主人公の苦悩は、やがて日本の超高齢社会への提言へと昇華される。誰かを愛することは生きることそのものであり、高齢者にとって愛する心を失わないことこそが、生きがいを見つける鍵だという普遍的なメッセージで物語は締めくくられる。老いてなお燃える恋心を通して、人生の尊厳と愛の本質を問いかける、現代的で深い人間ドラマである。折りたたむ>>続きをよむキーワード:
最終更新:2025-06-15 21:35:57
4104文字
会話率:3%
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。
それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。
本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。
しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪
の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。
『シャロンと申します、お姉様』
彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。
家族の愛情も本当の名前も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。
自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。
『……今更見つかるなんて……』
ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。
これ以上、傷つくのは嫌だから……。
けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず――。
◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。
※この作品はアルファポリスサイトにも公開しています。
※この作品の設定は架空のものです。
※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _)折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2024-11-17 08:28:26
154377文字
会話率:35%
心が不安定に揺れ動く妹の道子。彼女を何とか助けようとする兄の裕介。
裕介は妹のために犬を飼うことを勧める。しかし二人の兄妹に更なる不幸が訪れる。
自分自身の拠り所をなくした裕介は最悪の選択をしてしまう。
道子の兄を想う心、祐介の妹を想う心。
二人の想いが満たされることは許されないのであろうか。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2024-02-14 21:00:00
74136文字
会話率:47%
花嫁衣装に身を包みながらも、彼女は死にゆく人の顔をしていた。
妃が亡くなってからずっと独り身を通していた王が、突然後添いの妃を娶ると決めた。
王の息子は複雑な思いを胸に抱く。
新しく王妃となる女性は、亡くなった母にあまりにもそっくりであ
ったから。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2018-11-27 23:03:16
3459文字
会話率:19%