そうした気配が薄々這い回っていたが、勘三郎おとっつぁんのいまはとお久が産気づいたのは同じ刻限になった。長火鉢を真ん中にお店と奥を右往左往するうち、こきりこの鳴る音がますます渦を巻いてくる。それがその時のことなのか想い起す度に巻いてきた
渦なのか、こうまで年月が経ってしまった今となっては、埒もない。
錦の金羽織を背負ってこきりこかしゃかしゃ廻っていた手のひらサイズの勘三郎おとっつぁんは、いったんは体内に戻りいつもの悋気臭い顔で小言を繰り出したが、「こんなもん繰り返す阿呆もおらんやろう」と、いつもどおりのそっぽを向けた。
襖越しの向こうから赤ん坊がこの世に顔を出した最初の声がした。生まれた。助かった。両腕を二度まで上げて万歳をした。
「あの子は、わてや」
小さな勘三郎おとっつぁんではない。生ける骸に見えても、まだ本マモンの生の声だった。灰なんぞかき回してる場合やないと、親族みんな、その声の一音一音聞き漏らすまいと、耳をそばだて、筆をとった。
「わてが無うなったら、久の子がわてや。わてぇは、あの子に生まれ変わって、加賀屋を、お店を、この屋を守っていく・・・・せやからぁおのれ等みんなぁ安心したらえぇ・・・・・弔いは、あの子を棺の真ん中に座らして、来たもん皆んなに「この度のお生まれ変わり、おめでとさんで」って云わせるように触れ回れ。金屏風ならべて、こきりこ鳴らして、朱塗りの膳に金と銀の鯛を盛り付けて、大盃にひょうたん酒そそいで、廻してくれぃ・・・・・ちよも、せいも、とせも、まあも、あやも、くみも、なつも・・・・」と、女の名前ばかりなぞって、勘三郎おとっつぁんは死んだ。が、小さな勘三郎おとっつぁんはこきりこを鳴らしながら未だ女の名前を呼び続けている。
かよ さよ うめ かをる あやの まちる きさらぎ ふじつぼ あねわか よなくに さんかろう ことしず
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2021-05-29 07:09:55
144515文字
会話率:24%
永禄11年
織田信長率いる上洛軍により観音寺城が落城し、主君六角義治と共に小舟木勘三郎能隆は城を脱出したところで
迷子になった
気付けば山の奥で配下二人とサバイバル生活へと突入する
六角家の再興は成るのか!?
そして見事大名へと成長で
きるのか!?
拙稿『近江の轍(おうみのわだち)』に登場させられなかった設定やキャラを活用(再利用?)してアナザーストーリー的に書いていきます
たまに轍にも登場するキャラが居たり居なかったりします
別作品として単体でも楽しんでいただけるようにがんばります
改めて
この作品はフィクションであり、登場する人物・団体等の名称は実在のものとは一切関係ございません
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2019-07-18 12:00:00
28283文字
会話率:63%
片田数衛門は、参勤交代から国に戻ると妻が男と駆け落ちしていた。武家の掟として女敵討の旅に出て近江は大森藩の領内にある寺で一夜を明かすが、麻疹を患ってしまい、大森藩士大山勘三郎の娘沙那に介抱される。一人娘の沙那は父親から武芸を仕込まれ、婿には
娘と立ち会って勝ったものという条件と付けているが、未だ藩内にのそような若侍は居なかった。沙那の介抱を受けるうち、沙那に好意を寄せまた沙那も数衛門に好意を寄せる。しかし、女敵討の立場もある数衛門を婿に迎える事は難しいと思われ、父親の勘三郎は藩主である最上義智に相談したところ、近々催す剣術試合に勝てば召抱えて結婚も許すとなる。そしてうららかな春のある日、剣術試合に数衛門は勘三郎とともに向かうのであった。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2019-06-14 22:40:11
7261文字
会話率:52%
今は昔、青天勘三郎といふ者ありけり
常日頃より帯刀を心得ず、煩悩を払わんとす
名をば魔鬼破斬と謳われし一刀ぞ
今日日万人の煩悩を求め、流離う者の奇怪なる浪漫譚
ここに開幕セリ
最終更新:2016-04-26 00:46:46
2607文字
会話率:41%
この作品ではペンネームを「拙名唱陽」(せつなしょうよう)と名乗りたい。
あらすじはタイトル通り。
放射能&それでも原発推進するかゴラァ! なイカレポンチのたむろする我らが大日本帝国大本営。
歌舞伎は逃げろ。海外の公演先までも。
もう動かぬツ
ポレフから、愛を込めて。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2012-12-12 09:20:02
812文字
会話率:90%