1988年冬。同志社大学文学部に通う一回生・中田晴人(ナカタハルヒト)は、信州・志賀高原へのスキー旅行の帰り道、軽井沢にある老舗の蕎麦屋に立ち寄る。
蕎麦の香りに誘われるようにして出会ったのは、店でアルバイトをしていた、年齢不詳の少女・舞子
。癖っ毛をポニーテールに束ね、真冬でも短パン姿で、革リュックには文庫本と猫のカリカリを忍ばせている。少し浮世離れしたその少女に、晴人はつい、自分の住所を箸袋に書いて渡してしまう。
翌週、舞子は本当に京都までやってきた。下宿の前で三角座りをして――何事もなかったように、彼の日常に入り込んでくる。
「三条の河原で、等間隔カップルを襲撃したい」
「川下りがしたい。今すぐ」
「普通じゃないたこ焼き、買ってきて」
舞子の気まぐれな“お願い”に翻弄されながら、晴人は京都の街を駆け回る。
学生アパート、鴨川デルタ、四条河原町、祇園宵山、送り火、銭湯、夜の北山カフェ……
大きな事件は起こらない。ただ彼女のいる風景だけが、すこしだけ、非現実。
昭和の終わり、青春のまぼろし。
もう戻らない季節と、消えてしまいそうな少女をめぐる、京都ノスタルジー幻想譚。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-27 02:51:56
168953文字
会話率:39%
かつて金縛りのプロとして名を馳せた山本洋介は大学生である。被験者としての身分にロマンスを見出していたところの山本であったが、この頃は金縛りの一方的な快楽への没頭に危機感を覚えていた。大学生的でステレオタイプな不健康に気を紛らわせようと適当な
サークルを探していたところ、とある任意の研究会Xの名誉顧問を名乗る非実在系少女を観測する。彼女は山本の金縛りに伴う幽霊であるのか、或いは……折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2023-09-08 15:50:34
3354文字
会話率:31%