「……もう、終わりにしよう」
幼なじみであり、恋人だった篠原美琴は、曇りのない声でそう告げた。
その隣には、見たことのない男が立っていた。
肩と肩が、自然に触れ合う距離。否応なく、関係を物語っていた。
「……あ、そう」
三神静馬は、ほ
んのわずかにまばたきした。
驚きや怒りはなかった。ただ、何かが音もなく落ちたような感覚だけが、胸の奥で響いた。
言葉は浮かばなかった。何を言っても、すでに意味はない。
彼女の中から自分が抜け落ちた、ただそれだけのことだった。
静馬はそのまま歩き出した。
行き先もなく、あてもなく。
気がつけば、かつて遊び場だった廃遊園地に辿り着いていた。
今では誰も近づかず、鉄の匂いと風の音だけが支配する場所。
フェンスの隙間を抜け、錆びたレールの下をくぐり抜ける。
止まったメリーゴーランド。色の抜けた看板。
その奥――崩れかけた観覧車の影に、ぽっかりと地下へと続く通路があった。
興味があったわけじゃない。ただ、足が勝手に向いていた。
階段を降りるたび、湿った空気が濃くなっていく。
その先にあったのは、異様な空間だった。
壁一面に貼られたお札。
その中心に、黒く焼け焦げたような石碑があった。
無数の鎖が巻きつき、それでもなお封じるように力を放っている。
まるで、“誰にも見つけられたくなかった”かのように。
その時だった。
頭の奥に、どこか色香を含んだ女の声が、すっと囁く。
「……久々の人間ね。
ねぇ、ちょっと付き合ってくれない? ヒマなのよ。封印されてから、ずっと」
静馬は、少しだけ眉を寄せた。
そして、ため息まじりに、ひとことだけ返した。
「……別にいいけど。オレもヒマだし」
それが、三神静馬と“封印された女”の、すべての始まりだった。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-12 19:59:00
31720文字
会話率:38%
たった一つの車両に乗り合わせた人々、それぞれの胸に秘められた宇宙がある。外から見れば、ただそこに座っている人々の集まり。しかし、その一人ひとりの内側には、波乱万丈の過去があり、切実な現在があり、そして眩しいほどの希望か、あるいは深淵のような
絶望がある。同じ車窓の景色を見ているのに、見えているものが全く違う。感じている光や音、匂いが、その人の心のフィルターを通して全く異なる意味を帯びる。ただ、淡々と確実に進む電車の中、君はどこにいるのだろうか。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-06-01 20:11:20
32094文字
会話率:3%
機関列車は私が目を追うより早く走行する目まぐるしい家々の奥の利き手に見える優雅な立ち振舞いは列車が降車するまでは見られなかった。
京子は列車の乗降口から遠い中腹の席を予約し座る。私は家々を見るまで喧騒に騒がれた家から都心に出る事は無かっ
た。
買い物は近くのスーパマーケットで済まし、デパ地下で用を足す事が多かった。高級店も家から遠くとも電車では無く、乗用車を利用し買い物をする。
一人のお客人を抱え右出前の座席に置いた古めかしく映る本を片手に奥を指で指していた。
松ノ木が降りしきる滑稽な紋様の母屋を通り過ぎると、前から田舎を抜き出て都会に行く、檜の木の匂いが消える頃。
家々の隅から金髪のする少女は、両手を合わせて言い区切る黒髪の女性の講釈を聞き及んだ。片足を震わせながら遠くにもう片方の足を伸ばす。
千年前に移転し首都と成った京都の中央区に在る京都駅に二人は向かおうと列車の指定席を予約した。
十年来に行った、アミューズメントパークで味わえない、汗と快晴の空気が交わる瞬間を味わいに、行こうと企む、半券のチケットを生協の返金された金額を合わせ、結構するに至る金額が集まる。
千本鳥居本や清水寺の仏閣を見に廻ろうとするが、先に目が回り野放しの鹿に煎餅を食べられる事が先かもしれない。
毛並みや香水を持ち合わせメイクアップの完璧にする。余りにも田舎の野放しの香りを付ける事は憚れた。
彼女に話し掛け来て千本鳥居と見所がある。
東京と書かれた東旅客鉄道から降り、埼玉を経由せず直進の鉄道が構築されている。
指定席券は空席であれば発券する事が可能だ。座席の四席で一つの座席を購入する。
性質も変わるもので、駅のメロディーも私が生まれる頃に一新された。
動画投稿サイトを見れば何世紀も前の発着時に使われた曲が再生される。動画の音楽を聴きながらバックグラウンド再生された音楽の奏でる音調を聞き逃さないと集中する。
神社や都会のミーハーな雰囲気を堪能し白色の色の線に納めるためだ。
充分動かし、見切り発車で動いた抜本的な旅の計画は銭が底を尽きるまで、町を練り歩き消えるものだった。
葵の風が彼女を突き動かした。夏季に繋ぐ生暖かい春の風であった。
某東京は京都に都市が移った。
折りたたむ>>続きをよむキーワード:
最終更新:2025-04-28 17:00:00
1761文字
会話率:38%
夏が終わり秋が近づいてきた頃、いつも通りの道を歩いていると喫茶店が目に留まった。普段は気にならないのだが何故か惹かれてしまって、得意でもないコーヒーを注文してしまう。一口頂いてみると特に美味しさを感じない苦い味とコーヒーの独特な匂いが口内
に広がる。それによって顔を|顰《しか》めながらふと外を見ると、一人の少女が店の前の道を通り過ぎて……折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-04-05 18:12:17
6701文字
会話率:41%
懐疑的な見方をしていたら、正しくモノは見えないと思う。
最終更新:2023-08-14 19:55:06
236文字
会話率:0%
うるさいセミの声とテレビのCMにたまに混ざる風鈴の音色が、口の中に広がる西瓜の味が夏を告げていた。
「ホープノア、起動」
目を一度閉じてもう一度開くとそこにあるのは広大な草原。肌に確かに感じる爽やかな風と草の匂い。
俺、櫻井奏多はこの日から
住む世界が一つ増えたのだ折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2020-11-26 01:14:50
3975文字
会話率:36%
豪商、大地主がお大尽なんて呼ばれて、そこの石畳を闊歩してた残り香が未だまだ漂って、午ひる下りになれば、お天道さんが傾くのとは逆に通りばかりか路地まで花街の色香が、ジトッと湧いて時分の話さ。初めて耳にしたときは、どこぞアタマの温あったかくな
った女の拵えばなしだとみんな思ったね。
家路へと歩き出すと、気配だけが二間と離れずに付いてくる。虫食いの明かりばかりの闇夜の道で、振り返らなくてもおとこの履き古して抜けた白いズボンから形の良いお尻が小気味よく左右に揺れているのは、わかっている。
翌朝、すぐに、そいつが鼻腔を擽ったくすぐったんだ。「お粥たいたから、食べようか」
鍋の蓋を開けると、開けるまでじっと中に潜んでいた蜂蜜の匂いが白い湯気と一緒になって四角い部屋の天井までを一気に包み込む。既におとこが用意してくれた茶碗と汁椀それぞれが湯気で綿帽子かぶったみたいになってちゃぶ台に並んでいた。熱いだろうからと、持ちやすいほうの汁椀を渡され、箸を入れる間髪もいらぬまま汁をすするように粥は腹に落ちていく。一息でなく、ゆっくり長い時間がかかっているのに、息をつかぬ長いときが挟まっても苦しくなることはない。水の生き物が故郷の海に戻った安堵感に抱かれた静かさのまま、経っていく。こんなにも鼻腔は蜂蜜の匂いで蓋をされているのに、お椀の中には白い米粒より見当たるものはない。
「米と小鍋、勝手に使ったよ」
三口で先に啜りすすり終えたおとこを見て、よくもこんなに熱いお粥を三口で啜れるものね、と思った。なにか言わなきゃと思ったが、一番に気になることに話が及ぶのが怖くて、二番目に気になることを聞いた。
「何が入ってるの、なんでこんな特別な味がするの」
おとこはそれには答えず、女が食べ終わるまで待って鍋と二つの椀を洗い始める。
「いずれ分かるさ」水の音に紛れていたが、振り返らずにそう言った。 折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2019-11-16 09:25:24
5777文字
会話率:36%
ここはシナプス交差点。変わらぬ景色、変わらぬ匂い、変わらぬ風―――。風車(かざぐるま)がよく回る。交差点と名の付くとおり、この交差点からはそれぞれ4本の道が伸びている。
しかし、交差点に立ってどの方向の道を見ても、最終的にどこへ辿り着く
のかは分からない。道の途中までは視界に入るのだが、奥の方は靄(もや)がかかっていてよく見えないのだ。
そんな交差点の中央に風車が1つポツンと立っており、どの方向から吹いてくるとも分からない風を受け、カラカラと小気味の良い音を立てて回っている。
これはそんなちょっぴり不思議な交差点での物語―――。折りたたむ>>続きをよむキーワード:
最終更新:2019-07-10 17:45:46
10432文字
会話率:34%
通称「河岸高」に通うどこにでもいる普通の女子高校生、近宮羅音。
私は学校祭当日を迎える。3Dは私なんかの提案でお菓子の販売を行う「お菓子の国」をやることに。
お客さんの笑顔でお腹いっぱいになった学校祭が終わり、教室で片付けをしていた、私と友
達の大正字凜歌。
私たち二人は凜歌がお兄さんからもらったという青紫色の腐ったようなマカロン三つと、オレンジ色のマカロンを一つを食べようとした。
匂いは甘く、食欲をそそった。私は大のお菓子好きなので直ぐ口にしてしまう。凜歌も食べた。味は・・・・・・ってぎゃーっ!!
突如教室の床に生まれた穴に落ちて、花畑へ来た私たち二人。
マカロンのせいで「菓子国」、つまり異世界へ来てしまっていた。
状況を読み込めていない私はマカロンに入っていた紙切れのせいで混乱一線! 凜歌はおかしいくらい冷静だったけどね。
紙切れには凜歌のお兄さんお友達である「仁雄」と言う男を探せ。そしてオレンジ色のマカロンを三人で食べて戻ってこい。そう書いていた。
この時から絶望一色の人生を二人は異世界で過ごすことにぃーって嫌だ!
でも実際は刺激的で好都合で楽しいから心配はいらなくってよ。byラノン女王様
※2015年9月28日に作者名を「キラッキ」から「キラオっち」に変更いたしました。ユーザー名は「キラッキ」のままです。また、2015年10月30日に作品名を「お菓子の国の女王様は元女子高校生」から「異世界で女王様って良いじゃない?」へ変更しました。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2016-03-02 22:09:33
74997文字
会話率:46%