宇都宮氏との戦いの前夜、関東の主、鎌倉府君足利基氏は、密かに笙を手にしていた。
合戦を前に、演奏はためらわれたため、音無しの曲を奏でる。また、伝授を許された秘曲「荒序」を、家臣にして笙友の高坂氏重とともに合する。
基氏は常に血と裏
切りの中に身を置いた。幼いころの父と叔父の擾乱に始まり、自らも義兄や忠臣を滅ぼしてきた。
殺し合いに飽くことのない武士の性を厭いつつも、その運命に抗えぬ基氏は曲に己れの思いを込める。笙の音に秘められた主の諦念を知るのは氏重だけであったが、若くして病に倒れた基氏の死後間もなく、彼もまた自城を攻められ滅びるのであった。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2015-07-01 22:03:02
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