名将・武田信玄が治める甲斐の国。
その武威と統治は一見、盤石に見えた。だが、その実態は、痩せ細る金山と広がりきった版図により、経済と制度が静かに蝕まれつつある、まさに“蜃気楼”のような脆さを孕んでいた。
後継と目された嫡男・義信の死。
残
された勝頼は通字「信」も官位も与えられず、“制度の外”に立つ異形の存在として据え置かれていた。信玄は知っていた。勝頼を真の後継者とするには、「偏諱」「官位」「通字」の三点を揃えねばならないことを――だが、今の武田にそれを整える余力はなかった。
それでも、信玄は諦めなかった。
西へ。
家の未来を託すために、そして疲弊した武田家の財政を再建するために、信玄は最後の策を打つ決意を固める。
この章は、表からは見えぬ“武田家の歪み”と、それを正そうとする信玄の苦悩を描く導入部である。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-06-22 18:16:18
2275文字
会話率:4%