カウアンはトガル国の南端に馬を走らせていた。
数年前に海から侵攻してきたティング国の残党が村を荒らしているとの情報が入ったからだ。
トガル国各地に散っていた部隊を集めて残党を倒すことは出来たが、村は壊滅状態だった。
隊を撤退させたあと自
分も戻ろうとした時、ある家屋で細い声がする。生存者かと中に入ると、賊の刀身を受けたであろう男が息絶え絶えに訴えてきた。
曰く、娘を村の奥にある森の大木のうろへ隠したと。
「どうか娘だけは、どうかトキを……」
頷くカウアンに、男はわずかに笑みを浮かべ息を吐いた。
カウアンは踵を返して馬を走らせる。
ぽつりぽつりと顔に伝う雨をもろともせずに。
本作は長岡更紗さん主催
「小鳩さんブッ刺せ企画」に参加しています。
©️なななん2021
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2021-12-19 18:53:33
4619文字
会話率:60%