華やかなパリ、オペラ座界隈。表通りにはシャネルやヴィトンを求めて集う観光客たちが行き交い、光が溢れている。だが、一本裏通りに入れば、そこにはもう一つの「パリ」がある――現地に根を下ろした日本人たちが静かに、時に激しく生きる、もう一つの街の顔
だ。
本作は、パリ在住の翻訳者を語り手に据え、1990年代から2000年代初頭にかけての「日本人街」の実相を描く、全12話の連作フィクションである。登場するのは、免税店で働く女性、フランス人の夫を支えるレストラン店員、夢破れた画家、ビジネスで転落していく兄弟、カラオケラウンジに集う亡霊のような常連たち…。彼らの姿を通して描かれるのは、異国で生きるということ、誰にも言えない嘘、そして、言葉では救えない苦しみである。
登場人物の多くは「何かを求めている」。金、愛、名誉、あるいは“理解されること”を。だが、その願いはしばしば裏切られ、沈黙のなかに押し込められていく。翻訳という職業に携わる主人公は、そのすべてを“言葉にならない現実”として受け止め、語ることの限界と希望の両方に向き合う。
「翻訳できないのは、心の奥だった」
という一節に象徴されるように、この作品は人間関係のすれ違い、文化摩擦、ジェンダー、階級、国籍といったさまざまな「見えない壁」を静かに、しかし鋭くあぶり出していく。時にユーモラスに、時に残酷に、物語は進む。そして、すべての登場人物が、どこかで「選ばなかった自分」と対峙する瞬間を迎える。
また、各話にはモデルとなるような現実の事件や社会背景も散りばめられ、ドキュメンタリー的なリアリティも感じられる構成となっている。事実とフィクションの境界が曖昧になるような、濃密な読後感が特徴だ。
この物語に登場するのは「成功した日本人」ではない。むしろ、名もなく、声を上げることもなく、パリの裏通りでひっそりと生きてきた人々である。だが、彼らの生きざまには、語られるべき価値と、誰かに届いてほしい祈りが込められている。
本作は、「異国に生きること」をテーマに据えつつ、同時に「日本とは何か」「自分を支えるものとは何か」を問いかけてくる。かつてフランスで、そして今なお世界のどこかで“営業時間外”に生きている誰かの魂に、そっと手を伸ばすような物語である。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-02 08:32:45
20986文字
会話率:27%
南洋の小国ニコバレンの日本人街で探偵業を営むマヨネーズの異名を持つ少女、一円万代。
その名はよく金額と間違われる。
そして性格は悪い。
そんな万代には他人に伝えていない澁瀧澤万代というもうひとつの名前があった。
シブタキグループ
という日本の巨大企業グループの令嬢である。
ある日万代は失踪人の調査中に空からサカナと人間が降ってくる奇怪な現象を体験する。
それがこの事件の始まりだった。
このニコバレンには外国人向けの貴族領がありその中は国内法が通じぬ治外法権の土地であった。
そのひとつがグラマン館という日本の迫水家が伯爵として君臨する屋敷である。
その迫水家の長女である彗から万代は恵という少女のボディガードを請け負うことになる。
恵は迫水家四兄弟の末娘で莫大な遺産を譲られることから誰かに命を狙われていたのであった……。
●ミステリー風味ではありますが、これは青春ハードボイルド小説となります。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2023-02-27 18:00:00
118526文字
会話率:33%
時代劇の衣装のまま隣の楽屋の召喚騒ぎに巻き込まれてしまった、
自称・駆け出しのただ忙しいだけの役者。
世界を渡る前に謝罪と説明をしてくれた神から「お前の容貌が気に入った」と言われその姿のまま異世界へ
送られるが、降り立った先に広がるのは江戸
時代風の街並み。
神の指示で手紙を届けにいくと、そこに居たのは二度と会えない筈の祖父にそっくりな商人だった。
剣と魔法でほにゃららな世界の中の、日本人街のようなところがスタート地点になったお話。
なのでカタカナ語もあります。
※ 芸能界他、時代考証などそれほど詰めてません。素人によるふんわり設定とご承知おきくださいませ
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2022-11-30 09:00:00
663439文字
会話率:55%
2070年代、アメリカ。
テキサス州の日本人街で、山形雄介はその蜘蛛と出会い、あまり変わらない日常を繰り返す。
そう、彼以外が「あまり変わらない」と感じる日常を・・・
最終更新:2021-01-10 20:00:00
1724文字
会話率:46%
ようこそニホンジンタウンへ。 突然異世界に来て驚かれているかと思いますが、私にお任せください。この世界についてきちんと教えて、面談して就職先を探しますからご安心を。 ニホンジンタウンにはあなたと同じように日本から来た人がたくさん住んでいます
から、少し慣れれば寂しくないはず。 さぁ、まずはあちらの小屋で履歴書を書いていただきます。その後に面談をしますので、どうぞよろしく。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2019-12-16 19:07:42
3763文字
会話率:0%
平成が終わったにもかかわらず、いまだに平成を生きる街がそこにはあった。
とある異世界にある大陸の東、そこでは異世界に召喚された日本人たちが街を作り、懐かしい日本の日々を思い出しながらも前向きに暮らしている街であった。そして、そんな街の端
にある交番では、日本のことを思い出しながらも日々警察官として務めを果たしている日本人がいた。
この物語は、朝風大和という一人の男が異世界で警察官として生きていく姿を書いたものである。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2019-07-01 21:25:55
8935文字
会話率:53%
東京共和国。別名、インサニオ。
第二次世界大戦で、日本は連合国に対して本土決戦を挑み、完膚なきまでに敗北。焼け野原となった東京は、連合国による分割統治を受けることとなった。やがて東西の冷戦を経て、東京という街は時代の歪みや人々の欲望、張
り巡らされた両陣営の陰謀すらも飲み込んで。狂騒と繁栄が人々を惹きつける魔都、インサニオへと変貌を遂げたのだ。
そんな、力を持たぬ者は生き残れない魔都で、裏から日本人街という地区の平穏を守る自警団があった。
その名は、豊島一家。彼らは他の地区を牛耳るマフィアたちや汚職警官たちと時には穏便に、時には過激に、己が信念と理想を胸に対峙していた。
怠け癖のある短気な喧嘩馬鹿、仁衛幸平(にのえ こうへい)。
優しく美しい蹴り技の達人、豊島姫梨奈(とよしまきりな)。
元日本人の軽業金髪少女、六橋美奈(りくはし みな)。
見た目によらず頭脳派な金庫番、越後泰広(えちご やすひろ)。
そして、それら一家の面々を束ねる冷静沈着で幼児体型の銀髪少女、豊島理世(とよしま りよ)。
思想、信条、趣味、性格。てんでバラバラな彼らだが、胸に秘める理想はひとつ。
この街に蔓延る理不尽を、ひとつ残らずぶっ壊すこと。
狂騒の街を戦い抜く、『痛快侠客物語』が今幕を開ける。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2018-12-05 04:36:30
59923文字
会話率:40%
世界人口が百億を越えて数十年。地球は滅亡への道を歩んでいた。
その地球上では脳に直接差し込む携帯端末「ノックヘッド」を装着した人々であふれていた。いわゆる「テレパシー」能力で世界中の人々とつながったり、ネットワークを閲覧出来るようになり
、彼らをエンジェルと呼んでいた。
そのエンジェルの中に、時々智力と呼ばれる特殊能力に目覚めるものたちが現れ始めていた。彼らはアークエンジェルズまたはパワーズと呼ばれ、腐った社会や企業にサイバー攻撃を行ったり、テロリストまがいの行為を行っていた。
上海市のスラムのひとつ日本人街に住む杏璃魔遊もパワーズの持ち主だった。魔遊は仲間と共に世界を変えてやろうと日々活動していた。
魔遊の特殊かつ強大な智力に目をつけた、様々な組織たちとの戦いが今始まる。
※この作品は「カクヨム」にも掲載しています。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2018-01-14 14:04:45
154426文字
会話率:35%