都の喧騒に疲れ、心をすり減らした凜湖は、故郷である玄武京の甕の里へ戻ってきた。里には、人々の記憶を洗い流し、安らぎをもたらすと信じられる神秘の水「忘れ水」が流れている。その清らかな流れの中に、凜湖は心の静けさを見出していく。
「忘れ水」の
淵には、長きにわたり里を密やかに護り続けてきた河童の碧がいた。幼い頃、凜湖を救った碧は、以来、彼女の成長と人生の歩みを静かに見守り続けている。姿を見せずとも、碧は凜湖の人生の岐路に微かな導きを与え、故郷へといざなう。
これは、水に護られ、水に導かれた凜湖が、見えない絆の先に自身の運命を見つけていく、静かで温かい物語です。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-18 21:13:18
3721文字
会話率:2%
帝都・青龍京。その右京の路地裏に佇む香司の店『白蓮』の店主・月夜野 馨は、夢に現れる「究極の香」を追い求め、日々、香料と向き合っていた。しかし、長年の探求は、彼を深い疲労と絶望へと誘うばかりだった。
ある春の夜、馨は店の裏庭に立つ古木の枝垂
れ桜の下で、月光を纏う美しい女と出会う。言葉なき香りの対話を通じ、馨は、香りの真髄と、彼に託された奇跡の証に触れる。
それから、馨は秘めたる決意と共に、調合室に籠もる。香司としての新たな道のり、そして未だ見ぬ「究極の香」を求めて、彼の孤独な探求が始まる。
右京の小さな店から始まったその香りの噂は、やがて帝都全体へと広がり、人々の心を癒やし、明日への希望を与える**「奇跡」**となる。
果たして、馨が辿り着く香りの境地とは。そして、人と妖のささやかな交流は、帝都に何をもたらすのか──。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-06-07 13:32:47
7875文字
会話率:13%
帝都・青龍京に暮らす陵家の姫、綾乃は、わずか十歳で道の途中で垣間見た図書頭・紀文雅殿に淡い恋心を抱く。彼から漂う清らかな白梅の香に心を奪われた綾乃は、直接会うこと叶わぬ身ゆえ、想いを歌に託して文雅殿に送ることを決意する。
最初の文には返
事がなく、失意に沈む綾乃だったが、文を届けた女房・橘から、文雅殿の屋敷から白梅の香が濃く漂っていたと聞かされ、一縷の希望を抱く。今度こそと、綾乃は夜にだけ香る不思議な「夜の花」に歌を添え、二度目の文を送る。しかし……。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-30 20:30:00
6439文字
会話率:24%