産業革命によって富の裾野が広がり、芸術品・美術品が王侯貴族だけの独占物ではなくなった時代――
画家や彫刻家にとって、帝都の美術サロンで表彰されることは、無名から一挙にスターダムへ駆け上がれる格好の機会であるとともに、己の才能ひとつで食って
いくためには必須の、狭き門でもあった。
サロンで4年連続入選をはたし、気鋭の若手画家として名声を確立したエドゥアール=ソールフェは、画壇にとどまらず帝都社交界の新星となっていたが、仕事の依頼の取次ぎや自作の販売を、無名時代の自分に目をかけてくれたとある商家の令嬢に一任していた。
「青田買い上手」とやっかみ半分にいわれるその令嬢、シモーヌ=メナンシュだったが、若き貧乏画家に帝都での下宿を提供したことをいつまでも恩に着せるつもりはなく、どうして彼がいまだに仕事の仲介を一任してくれるのかわからず、むしろ困惑していた。
なにせエドゥアールときたら「彼女とはビジネスパートナーにすぎない」と、恋人あつかいしてくれないのだから……。
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2024-12-15 22:02:27
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