早朝の雨上がり、シャッターが並ぶ〈日向坂市商店街〉に立つのは、失職した元銀行支店長・斎田拓実、四十五歳。静かな観察者として長年培った金融と人生の知恵を武器に、彼は「もう一度この通りに朝を呼び戻す」と心に決める。
まずは閉店続きの帳簿を洗
い直し、眠る需要を数字で掘り起こす。市役所財政課のえま、印刷職人の遼平、実務派の薫、気ままな移動カフェ店主・海翔――価値観も年齢も異なる仲間たちと、拓実は一軒ずつ店主を歩き回り、実地調査を重ねる。
官僚主義に縛られた役所、保守的な長老会、台風を呼ぶ夏祭り復活計画、外資系リゾートの進出――立ちはだかる壁は枚挙にいとまがない。それでも拓実は〈何を・なぜ・どうやって〉を常に具体化し、時に帳尻を合わせ、時に情を通わせ、現場を動かす。
中盤では外資による買収提案が商店街を揺らす。即金に傾く若者、伝統を守りたい年長者、そして街の未来を託そうとする市民。その間に立った拓実は、「数字は嘘をつかないが、人は数字以上に街を愛せる」と宣言し、公民連携モデルを提示する。
ラスト十話では病に伏せる拓実に代わり、えまが指揮を執る。仲間たちは彼の背中から学んだ「知恵を分かち、次に渡す」精神で、商店街を人の輪ごとブランド化。夜明けのアーケードを歩く拓実の視線の先に、世代を超えた笑顔が広がる。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-28 06:50:00
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会話率:57%