1953年3月、サヴィエート連邦最高指導者ディミトリ・グロムキンが急死する。
彼が作り上げた共産主義社会は西側諸国の目には完全な独裁体制であり、その抑圧的な体制と個人崇拝は異様なものとして映っていたが、グロムキンは共産主義の象徴として諸国
家では崇敬され、権力と権威は絶大なものだった。
その偉大なる指導者の死を国民は哀しむ一方で、彼の死により硬直化した社会に変革が起きるのではとないかという期待も生まれていた。
政治局員や軍部など、グロムキン体制の維持を望む派閥と体制変換を目論む派閥の権力闘争が起こる。そして、両派閥がグロムキンのひとり娘であるオリガの支持を取りつけようと画策するが、彼女は父の死後、政治とは一切距離を置く姿勢を取っていた。
グロムキンの国葬後、政治局やNKVDなどがそれぞれの思惑で権力掌握に動く中、オリガは秘かに立てていたある計画を実行に移そうとした。だが、その計画はグロムキンの忠実な腹心であり、権力闘争のトップにいたマトヴェイ・ベリヤによって頓挫させられる。
「オリガ、私を捨てて自由になれると思っているのかい?」
オリガにとってベリヤは、子どもの頃から遊び相手や世話をしてくれた友人であり、叔父のような存在だったが、いかがわしい噂が絶えない人間でもあり、思春期以降は複雑な関係が続いていた。
その後、ベリヤが所有する別荘に連れて来られ、彼はオリガにこう告げる。
「君は自分の罪を、君が父親と背負った罪を贖わなければいけないんだ。さあ、私と一緒にその罪を償おう……」
謎めいた言葉に恐れ戦くオリガを、ベリヤは徐々に追いつめていく。
その一方で、グロムキン後の権力争いは熾烈を極め、彼らの過去が亡霊として自分たちの前に蘇ってくるのだった……。
*尾崎の個人サイトにも掲載しています。(連載形式だとブログより投稿サイトの方が読みやすいので)。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-11 20:07:48
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