重複投稿。
彼女は八重さんと言う。かつては芸妓をしていた老婦人である。現在三味線と謡の師匠であって、それで生計を立てている。大の猫好きである。八重さんは野良猫がよく出没する、「猫スポット」を知っている。そこは彼女のアパートの近所で、神社の
鬱蒼とした森に囲まれ、深夜には怖くて歩けないほどの闇に包まれる。いろんな猫がいるのだが、みなお腹をすかせているようすであって、気の毒なので、時々出しを取った後の片口鰯の炒子を持っていってくれてやる。トラと白の斑猫と、びっくり眼の黒猫、その二匹が一番よく来る。見たところ「つがい」のようだ。
日和がすっかり暖かくなった彼岸過ぎの頃、黒猫のお腹が大きくなりだした。どこで生んだのかわからないが、知らぬうちに仔猫の声が神殿の向うから聞こえるようになった。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2014-01-20 20:47:23
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