「昔は良かったなあ」
空が木通色に染まる頃。家の庭に置かれた石灯籠に火を灯すと、それは眠りから覚めたようにつらつらと語り出す。
「人間が沢山いて、賑やかでよお」
とうの昔に死んだ祖母曰く、付喪神が宿っているらしい。本当かはわからな
いが、灯籠は確かに話をする。滔々と語るばかりのときもあれば、意見を求められたり、質問をされたりすることもある。
私は縁側に腰かけなら話を聞き、ときおり言葉を返す。傍から見ればおかしな光景だろう。一緒に住む孫たちは、オバケがいるといって庭に近づこうとしない。
「それが今じゃあ、すっかり静かになっちまって……」
灯籠は悲しそうにボヤく。なんでも昔は、この家にたくさんの人が出入りしていたらしい。というのも、大昔はそこそこ大きな商家で、使用人や従業員がわんさかいたのだそうだ。戦争やら財閥解体やらで色んなものを手放した結果、広いこの家と灯籠だけが残った。
「あら、私たちだけじゃ不満なの?」
「不満じゃねえけどよお……。……ん? なんだ、その……手に持ってるやつ」
私は持っていた一枚のカードを見せる。
「今日貰ったの。未来を占うカードなんですって」
「ほう、占いかあ。あれは面白いよなあ。そうそう、昔、陰陽師とかいうやつが――」
灯籠はよく思い出話をする。それを聞き流しながら、私はカードを眺めた。コインのクイーンというらしい。よく分からないけれど、豊かさとか、希望だとか、そういう意味を持っているらしい。
「お前とはあと何回、こうして喋れるんだろうなあ」
「ちょっと、縁起でもないこと言わないでよ。あと二十年は生きるわよ」
「二十年なんてすぐだろうがよお」
私は一枚のカードを手の中で撫でながら、ふふふと笑う。
「そうね、あなたには二十年なんてあっという間かもしれないわね」
折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2024-07-15 19:41:30
980文字
会話率:58%
戦後。敗戦国のこの国は連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の統治下に置かれた。GHQによる財閥解体が進むなか、三栗谷財閥の令嬢である美琴が何者かによって胸をナイフで刺された状態で発見される。警察による最有力容疑者は美琴の義兄である時雨。し
かし、美琴の母である久恵が時雨は無実であると訴え、探偵に調査を依頼する。 一体、誰が・なぜ・何のために美琴の命を奪ったのか……。 それを解明するため、東京から蒸気機関車でやって来た鮎川舞花が陀鬼の町に降り立った――。 **週に一回か二週に一回の亀更新になります**折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2019-08-22 22:38:09
76469文字
会話率:46%