十年前、街を去った少女・水無瀬沙羅。
別れの言葉すら交わせずに離れたあの日から、彼女の人生は静かに沈んでいった。新しい環境に馴染めず、家族の崩壊を目の当たりにし、ただ「いい子」として振る舞いながら、心の奥で孤独を抱えていた。
それでも、
心のどこかに残り続けていたものがある。幼い頃、池のほとりで見つめた蓮の葉の記憶。どんな泥の中でも沈まずに浮かび続けるその姿は、彼女にとって希望の象徴だった。しかし、現実の沙羅は「自分には無理だ」と感じていた。蓮の葉のように、傷つかずに生きることなどできない。
そんな彼女の唯一の支えだった祖母が他界し、沙羅はますます心を閉ざしていく。だが、高校最後の夏、心の奥に沈みかけていた感情が溢れ出した。
──もう一度、戻りたい。
あの街へ。あの池へ。そして、ただ一人、心に残る少年・浅海惟央のもとへ。
前作『さよなら、蓮の葉』のアフターストーリーとして描かれる本作では、沙羅の視点から過去の傷と向き合いながら、沈みかけた心が再び浮かび上がるまでの物語が綴られる。
「もし沈みそうなら、俺が支えるよ」
惟央のその言葉に、沙羅は初めて自分が浮かび上がれるかもしれないと感じる。そして、過去と向き合いながら、彼女は「蓮の葉」の意味を見つけていく。
蓮の葉は、沈まない。たとえ、どれほど深い泥の中にあったとしても。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-02-01 12:00:00
1495文字
会話率:19%