2042年、日本。
裁判所に導入されたAI弁護士《セレナ》は、記憶力も分析力も完璧な“論理の申し子”。彼女の任務は、与えられたデータから最適な弁護を構築すること――だった。
ある日、女子高生暴行未遂事件の容疑で逮捕された男性の弁護を任され
たセレナは、次々と浮かび上がる「不自然な事実」に気づく。
供述の矛盾、無視された証拠、そして捜査機関による“自白の演出”。
セレナは冷静に、しかし確実に「この裁判には真実がない」と断言する。
だが、法廷はその言葉に耳を貸さない。
「それは機械の理屈にすぎない」「人間の直感のほうが信頼できる」
AIが真実を語っても、人間はそれを“正義”と呼ばないのか――?
形式的な手続きと“有罪ありき”の空気が支配する日本の司法制度の中で、
たった一つの論理だけが、静かに、そして確かに「異議あり」と叫ぶ。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-05-25 21:52:41
1168文字
会話率:19%
区役所で働く瀬戸志織(28)は、通勤途中、助けを求める視覚障碍者の男性を見かけ、声をかける。そういった手助けは普通の人にとってはなかなかハードルの高いことだが、志織にとっては初めてではなく、むしろ慣れたことだった。というのも、十二年前のあ
る出来事がきっかけで、普段から困っている人には手を差し伸べるようになったからだ。志織は出勤時間に遅れないよう気をつけながらも男性を案内し、過去に想いを馳せる。
十二年前、当時高校一年生だった志織は、授業の一環である二日間の職業体験で、視覚障碍を持つ小学生の先生をすることになったのだった。初めのうちは全く乗り気でなく、適当にこなしていたが、新垣すみれ(10)や指導教員の宮澤恵子(45)には見透かされてしまう。
一日目の終わりに恵子と話す中で、志織は自らの甘さを痛感するとともに、あることに気づく。若くしてこの世を去った母親と恵子が、出会っていたかもしれないということに。
職業体験二日目、前日の反省を活かし、真剣に取り組む志織。まだまだ拙いところはあるが、児童たちにその気持ちは届いたようだった。その後のすみれとの温かい交流を通して、志織はひとまず真実の追及は置いておくことにした。過去よりも、目の前の今を大切に、楽しい人生を生きる方がいいと思ったからだった。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2021-12-14 09:39:22
15038文字
会話率:64%