この二編において用いた謡曲は、奈良のご時世に藤原淡海公(不比等)が唐土より贈られた宝玉を、讃州志渡の浦の海で失くしちまって、かの所の海女と契りを結んでその玉を海底に探させたっていう話によるものだ。海女は健気にも身を捨てて千尋の波間に潜り、
龍神に守られたその宝玉を奪ったが、悪龍毒魚に追いかけられてどうしようもなく、乳の下を切り裂いて玉をその中に隠して海面へと浮かび上がって来た。そのくだりを鑑みつつ乳母の忠義に書き換えて綴ってみようとぽつぽつと思ってはいるが、龍神が迫ってくるよりも烈しい書房の催促・・・。急かされると考えもまとまらないものだというのに。志渡の浦に縁ある二条院讃岐の恋歌にこうある、
有磯海の浪まかきくわけてかつぐ蜑
息もつきあへずものをこそ思へ
ああ、有磯の海ほどの深さもない、この浅い才能で作り出したこの物語の思案に暮れて、かづきの白水郎(あま)の息よりもっと苦しんでいる作者の心であることよ!折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2013-09-16 23:44:26
16088文字
会話率:48%
白縫譚は幕末に描かれた、所謂怪奇物にあたる長編小説です。全90編を仕上げる迄に作者は3人代わり、流行り物や故事、事件や時代の移り変わりに影響されて、様々な方面に広がっています。壮大と言えば聞こえは良いですが、正に描きたいものを描いてみた、と
いう方が私はなんだかとてもしっくりくるような気がします。
主人公は春之助と若菜姫。ダークヒーローとダークヒロインが一体何を得て、何を失って行くのか…。そして正統派ヒーローの秋作の活躍や、現れでる大亀や化け猫、怨霊に生き霊、超人化する子供達。なんとも盛り沢山でそして作者はどうやって話を集約させたかを見ていただければ幸いです。
※この現代語訳に際して、
株式会社図書刊行会
の白縫譚の口語訳を引用しております。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2013-07-19 09:32:22
14892文字
会話率:49%