"顔のない人が追いかけてくるの"
顔のない人――――それは、神か悪神か?
享保《きょうほう》二十年(一七三五年)の秋。
お姉ちゃんは七つになる前に、この世を去った。
月日が私も過ぎて私も七つを迎える。
これは、私の
忘れられない幼い日の出来事。
顔のない人は私の前に幾度となく現れた、黒い能面から不敵な笑みを見せた。
ある夜、私は真夜中にうなされ、この世をなのかあの世なのか区別が付かないほど、意識が朦朧とする。
母に起こされた父は私をおぶり、「小石川養生所」へ駆け込む。
※「小石川養生所」当時の総合病院。
しかし生命のしのぎを削る、この場所でも、顔のない人は執拗につきまとい、死の淵をさまよう私を高みから見物する。
鼻歌の代わりにお経を唱え、足音の代わりに死臭を漂わせる。
気配だけで私を恐怖へとおとしめる。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2019-08-28 22:00:00
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