登場人物:
周防 蓮(すおう れん): 40代前半。理論物理学者。専門は量子重力理論と宇宙論における時間の矢の問題。マサチューセッツ工科大学で博士号を取得後、国内外の研究所を渡り歩き、現在は京都の高等学術研究所で主任研究員を務める。怜悧な
論理と、森羅万象の根源を求める純粋な探究心を併せ持つ。趣味は、江戸時代の和算家や天文学者の古文書を収集し、その思考の軌跡を辿ること。
三枝 朔(さえぐさ さく): 蓮と同年代。比較文化学者・思想史家。パリ第4大学で博士号を取得。専門は18世紀ヨーロッパの博物学と、非ヨーロッパ世界の知の体系との比較研究。現在は東京の大学で教鞭をとりながら、文芸誌や思想誌に精力的に寄稿している。該博な知識を縦横無尽に駆け巡らせ、自明とされる概念の系譜を暴き出すことを得意とする。皮肉屋を気取っているが、その根底には人間という存在への尽きない好奇心がある。
舞台:
八月、盂蘭盆を過ぎた京都。観光客の喧騒が嘘のように静まり返った、嵐山の麓に佇む古刹。その一角にある書院が、今日の二人の会見場所である。この寺は蓮の実家であり、彼は住職の次男として生まれた。今は兄が跡を継いでいるが、奥の書院は蓮が帰省した際の書斎として、今も自由な使用を許されている。
蝉時雨が容赦なく降り注ぐ午後。書院は南側の庭に面した障子を開け放っているが、風はほとんどない。庭の苔は深く、濃い緑色が目に痛いほどだ。時折、軒先に吊るされた南部鉄の風鈴が、忘れた頃に「ちりん」と乾いた音を立てる。部屋の中央には、拭き清められた黒柿の座卓が置かれ、その上には冷たい麦茶の入った硝子の水差しと、二つの薄い切子のグラスが、汗をかいて置かれている。折りたたむ>>続きをよむキーワード:
最終更新:2025-07-11 22:51:35
9519文字
会話率:53%
その場、その場の思いつきだけで書き続けていると、思わぬ着地点へと辿り着く。いつもの漂流的思索。
最終更新:2025-06-15 15:14:10
1715文字
会話率:29%