夜の桟橋、水槽の砕けた音とともに、硝子の破片が光を跳ね返す。
降るように舞う水滴の中で、見知らぬ少女が現れた──
「どうして、この子の手が、こんなにも温かいの」
誰でもないはずの彼女に、揺歌の心は呼応してしまう。
閉じたはずの感情の蓋が、濡
れた指先でそっと揺れた。
それは過去を癒やす出会いであり、壊れてなお煌めく
感情の破片がつなぐ“恋より深いなにか”の物語。
登場人物紹介
■ 縋猿揺歌(すがざる ゆうか)
「好きって言われただけで、どうして泣けるんだろう──」
かつて恋人だった晴翔との別れをきっかけに、恋愛そのものが“壊れてしまった”女性。
何かを信じるたびに裏切られ、名前を呼ばれるだけで涙が出るほど、感情は摩耗している。
それでも、タマリンの手に触れられた瞬間──壊れた心の奥から、誰かを求めていた自分を思い出してしまう。
過去から逃げたくて、でも誰かに抱きとめてほしくて。
揺歌の物語は、そんな“信じることのリスタート”だ。
性格:抑圧型・ロジカルに振る舞う・だが内心は情動的
■ TamarinPopette(タマリン・ポペット)
「初めて出会ったのに、泣き顔を放っておけなかったんだ」
桟橋に突然現れた謎の少女。
揺歌の名も過去も知らないはずなのに、まるで心の奥を覗きこむようにそっと触れてくる。
彼女の存在は、“恋”という言葉だけでは片付けられない救済となる。
性格:純粋・優しい・だが理屈を超えた部分で動く
■ 鴉猿(あえん)
「だいじょうぶ。わたしはまだ、ここにいるよ」
揺歌がかつて大切にしていた黒羽の人形。
種別:人形(黒羽のぬいぐるみ)
特徴:片目が欠け、羽が破れた姿で現れる
■ 潮羅(しおら)
「終わったはずの恋が、まだここにいる──?」
元カレ・倦猩 晴翔への想いが変質した、感情の残骸。
断ち切ったはずの関係が“影”となり、怪異として揺歌にまとわりつく。
タマリンの存在と対をなす、“過去に引き戻す力”を象徴する存在。
種別:怪異(影)
特徴:揺らぐ輪郭、消え入りそうな声で囁く
■ 水喰鰭(みずはみ)
「覚えていたことが、どこかに流れていく……」
濡れた床に広がる感情の“希釈者”。
種別:怪異(水の幻想)
特徴:巨大な鰭と濁った目を持ち、水面の揺らぎとともに現れる折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2025-07-22 09:32:16
4529文字
会話率:31%