これは、歪められた少女の成長と友愛の物語。
*
「俺と契約して主になってよ!」
と、言われたかどうかは定かでないが、異世界のオークションに『出品物』として召喚された佐藤梨々(15歳)は、自分の右腕を切り落としたナイフの精霊・シェルの主と
して競り落とされる。
「『主』なら誰でもよかったんでしょう?」
「俺は主がいいんだ」
シェルの親愛を飲み込めない梨々。とっとと勝手に死んでくれ、とばかり親に期待され続けてきた彼女は、唯一の保護者であった祖父を亡くした日に、心を凍らせてしまったのだ。
だが、彼女の一番の怒りを、理不尽を受けとめられたことで、主としての務めを果たそうと動きはじめる。
「主、もう一回!」
「……シェルさん」
「『さん』抜きで!」
人並み以上に魔力の低い梨々にとって、この世界は食事ひとつとっても、困難が大きい。
それでも務めを、誰かの期待を果たそうと、当たり前に身を削り続ける梨々に──権力者の歪みが、襲いかかる。
「最後にシェルさんに、伝えてください」
「どうか、忘れて、と」折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2022-05-04 18:00:00
169921文字
会話率:35%