ソロキャンプ、マラソン、テニス、映画鑑賞、小説執筆、プラモデル、DIY、ガーデニング、料理……世の中には、膨大にして多岐にわたる趣味で溢れている。そのほとんどが、目で楽しみ、肌で感じることを主眼に置いたものだが、全く正反対の“目には見えない
もの”を楽しむ趣味も、この世の中にはある。
オーディオ――「音」という“目には見えない電気信号の流動”を楽しむためだけに、高価なもので数百万もする機材を買い求める猛者を、人は「オーディオマニア」と呼び、恐れた。高額機材を物色するに飽き足らず、ケーブルの素材や電源の種類にまで並々ならぬこだわりを持ち、公共物であるはずの「電柱」を自宅にセットするために身銭を切り、「電力会社を変更することでアンプの音が変わる」などという、奇々怪々な噂で満ち溢れた業界。それがオーディオ世界の実情である。
なぜそこまでの、一見無駄とも思える努力を費やしてまで、オーディオマニアたちは「音」を求めるのか。そこには、“目に見えないもの”を求め続ける、人間の静かな狂気が隠されていた。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2020-12-16 18:05:24
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会話率:21%
一人の高校生が、オーディオに嵌るまで。
音楽好きの高校生の麻田馨は、友人の田中からウォークマンのイヤホンを変えてみろと勧められる。半信半疑の馨は叔母でオーディオマニアの千恵のところを訪ねその事を聞いてみる。千恵は当然のように変わると答え、持
っているイヤホンをいくつか馨に試聴させる。それで、馨は一万円程度のものが欲しいと言い、千恵と秋葉原へ行くことになる。千恵が選択したショップはイヤホンとヘッドホンの専門店で、所狭しとイヤホンのデモ機が置かれていた。どれを選んでいいかわからない馨に千恵はHF5を勧める。このイヤホンを買い、音楽の聴こえ方の変わりように喜んでいた馨に田中が新しいポータブルプレイヤーを見せる。馨はこれもまた欲しくなり、またしても千恵に相談する。しかし、千恵は本当に欲しいものは何かと問い反対する。結局、馨はヘッドホンを室内用に買い、満足する。
しばらく満足していた馨を千恵が呼び出す。千恵は自作スピーカーの最終調整に付き合わせる。スピーカーの出す音に改めて魅了され、新たにシステムを組むことを決意する。千恵が更に驚かせたのは、ワンボードPCラズベリー・パイ3とそれに接続するI2S DACで構成された機器であった。ウォークマンではそれは鳴らせない。では、と、千恵は自作用基板を渡して、ヘッドホンアンプを自作すれば、と言う。自作する決意をした馨は再び千恵と共に秋葉原を回ることになる。パーツ屋を回ってなんとか部品を揃えて、PCオタクである父から工具を借りて自作をする。
こうして、馨は徐々にオーディオに嵌ることになるのだった。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2016-08-08 02:59:08
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会話率:48%