第一話:引退宣言
「半年後、私は引退します。」
その一言で、僕の10年間は止まった。照明が落ち、ざわつく会場の隅で、一瞬の夢から覚めたように自分が立っていることに気づく。壇上には、西宮津香紗――僕がずっと応援してきた、売れないけれど
誰よりも輝いて見えた女優が静かに立っていた。笑顔を浮かべた彼女の表情には、何かが吹っ切れたような決意があるように見えた。
彼女が辞める。もう、ステージで見ることはない。胸がぎゅっと締め付けられ、言葉が出ない。感謝の拍手に包まれる中、僕はひとり立ち尽くしていた。去り際に何かを伝えたい。彼女に――届くものを。そう思い詰めた夜、偶然見かけたのは「劇団ゆーとある」のオーディションの知らせだった。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2024-10-28 01:10:00
597文字
会話率:29%