日常に垣間見える非日常――その関係性を具体的な形で表現するならば、それはさながら対極図のようなのだろう。
白と黒、善と悪、プラスとマイナス……相克すること螺旋の如く、相反する概念が同一になることはない。
否――なってはいけ
ないのだと。
非日常の住人は日常からあらゆる秘跡を乖離し、古に伝わる大願の達成を目指した。
『魔術師』が望むは無尽蔵に濁流する魔力の源泉にして、第二の世界『神域』への到達。
魔力の独占と魂の解放こそ、神への昇格に値するという。
彼らにとって世界で観測される怪異や神秘に類いするものは『神域』到達への“座標”に他ならず、回収と解析、管理を目的に日常から隠匿する。
『錬金術師』が望むはこの世の絶対権力――『賢者の石』の錬成。
運命さえもたやすく超越する輝石と一体化した時、その者は神格化され、体内でエリクサを生み出す神になるという。
彼らにとって世界で観測される怪異や神秘に類いするものは『賢者の石』錬成の“設計図”に他ならず、回収と分析、考察を目的に日常から隔離する。
『聖職者』が望むは十一の奇蹟――『聖遺物』の回収。
集いし奇蹟は神を召し、破滅が確定した終末世界へ修正の施しをもたらすという。
彼らにとって世界で観測される怪異や神秘に類いするものは終末を招く“原因”に他ならず、神罰と洗礼、救済を目的に日常から浄化する。
太古より三大勢力が目指す大願は相違あれど、掲げる秩序に差異はなく。
己が祈願こそ至高であり、秘跡を日常にもたらすことは禁忌である、と。
――そんな古の風習を、鼻で笑う者たちがいた。
曰く、何の面白みも感じないのだと。
紡がれてきた大いなる歴史をたやすく見下し、魔術師は笑う。
錬金術師は興に乗り、聖職者は興味を示す。
白黒つけずに灰でいい、善悪語らず偽善でいい、加減せずとも零でいい。
封鎖世界を飛び出したアウトローたちは謳う。
“世界よ、混沌に染まれ”と。
これは、非日常に足を踏み入れた青年――綾杜枢人《あやもりすうと》が対峙する数々の複雑怪奇を記した物語。
※こちらは試し読み版となります。
第一巻『魂魄灯の涙』の下書きが完成し次第、こちらで本格的に連載予定です。何卒よろしくお願いいたします。折りたたむ>>続きをよむ最終更新:2016-06-10 14:30:30
56183文字
会話率:20%